第6話 過去の幻影

「今のは一体何だったんだ?」

 手に持った瞬間に光って消えた。

 正直、あの紫の球体の利用価値というのが分からない。


 爆発はしたが、殺傷性は無いから、冒険者がモンスターを倒すための爆弾には使えない。

 光ったけど、目眩しになるような強い光は発動してないし、一瞬だから暗い洞窟用の灯りとしても使えない。


「魔法が無いと、効果が発揮しない魔法の玉だったのか」

 理解が追いつかない。異世界に来てわからない事だらけだ。


 平和な日本で過ごしていたからこそ、気にする事は無かった身の危険を初めて感じた瞬間だった。


 無知な事は、恐ろしい事だと、このとき初めて知った。

 気をつけないと、本当に手で触れるだけで爆発するような危険物があるかもしれない。


 いや、日本にも触れるだけで爆発するような物はあると思うよ。

 だけど一般的に出回らないから、魔物と人間が戦うこの世界ではありふれた物かもしれない。

 そうと思うと誰だって怖いに決まっている。


 そんな事を思っている時だった。

 目の前に再び幻覚が見えた。

 今回は、見ている物が幻覚だということを実感する事ができる。


 何故なら写るもの全てが透けているからだ。

 家屋に弓矢が、突き刺さったり、兵士が刀で家を壊していたり、見るからに村が荒らされている光景だ。


 そんな中で、兵士が村に住む女、子供を襲おうとする酷い情景もはっきり見えた。

「この村の人間を1人残らずに殺すんだ」

「神に仇す悪魔の種族たちめ」


「嫌だ死にたい」

「助けて、お母さん」

「やめて、子供達まで殺さないで」


「ひ、酷い」

 無惨に村人が殺されていく光景を目の当たりにする。

「キャアァアァ」

 兵士の刀が村人たちの体を切り落とした。


「う、ウェエ」

 人が死ぬ光景を初めて見た。

 前世で見る推理サスペンスドラマとは違い、殺されて本物の死体になった人を。 


 この光景に不慣れな俺は耐えきれずに嘔吐をしてしまった。

「ひ、酷すぎる」

 無抵抗の人間に刀を向けるなんて最低だ。

 1人残らずに村人たちを根絶やしにしていく兵士たち。


 そして村に生存者が1人もいなくなった。

 それから兵士が村から消えた後に1人の男が村にやってきた。


 見ている光景は5分足らずだが、実際は恐らく半日以上はかかっているだろう。

 何故なら日が落ちていたのに、男が来たのは日が天まで昇っていたからだ。


「こ、こんな事になるなんて」

 男はショックを受けていた。

「どうして、こんな事に」


 黒いマントに黒い服を着たツノが生えた男は正常な様子では無い。

 かなり焦っている

「戦争から逃すため、この辺境な村に移住させたのに、それが仇となったのか、くそ」


 すると男は、走り出した。

「頼むから無事でいてくれ」

 男が向かったところは、倒壊して瓦礫になった所。


 元々は家が建っていたのだが、その面影がない、中に人がいればほぼ違いない、生きていないだろう。

 それでも男は瓦礫をどかして必死に何かを探していた。


 手から血が出ようと、気にする事なく。

 目的のものを見つけたときには手のひらは傷だらけになっていた。

「そ、そんな」

 男が瓦礫から引っ張り出したのは若く美しい赤色の髪の綺麗な女性とその女性が抱き抱える赤ん坊、2人の死骸


「遅かったか。何でこんな事に」

 男は涙を流していた。

「ま、魔王様」

 すると後ろからツノと黒い羽、牙の生えた生えた白髪をしたがメガネをかけた男が黒服の男の元に駆け寄ってきた。


「そ、そんな。女王様に王妃様まで」

 男は魔王と呼ばれていた。

「お前に2つ頼がある、シャルバル」

 魔王は何か覚悟を決めたかのように真剣な表情をしている。


「どうかここにいる村人たちを供養して、近くの山に墓を立ててくれ」

「分かりました。村人たちを私が弔います魔王様」


「ありがとう。それともう一つ、これが最後の頼みだ」

「魔王様、それはどういう意味ですか」

「すまない。お前には・・・を・・の・・・・に・・・・くれ」

「何をおっしゃるのですか魔王様。そんな事を言うとはもしかして」


「後はお前に任せる」

 そう言って強い光を放ち過去の幻影は目の前から消滅していった。


「この村は襲われ、崩壊させられたのか」

 壁が壊れいた家があったのは老化ではなく、兵士に壊されてしまったからなのか。


「確か、近くの山に墓を建てるという事を言っていたな」

 俺は近くにある山まで歩き始めた。

 村から歩いて約5分、近くの山の頂上で、百体以上ある村人たちの墓地を見つけた。


「ここの墓地が戦争に兵士に襲われた人たちの墓か」

 俺は手を合わせて村人たちが集う墓の前で、弔った。

「どうか安らかに、来世では幸せな生活が送れますように」


 今思うと拾った紫の玉は過去の幻影を見せるものだったのだろう。

 だけどその幻影は途中で終わっていた。

 魔王と呼ばれた男は召使いの男に何かをお願いしていた。


 恐らくあの男に自分の代わりに魔王を引き継いで欲しいという願いをしたのだろう。

 そして魔王と呼ばれた男は家族を殺された敵討ちで敵陣に乗り込み死亡した。


 そんな所だろう。

 村の中央に魔王様、此処に眠ると書かれた墓が建てられていたのだから。

「あれ、何で俺文字が読めるんだ」


 書かれている文字は日本語では無い、だけどすんなりと読めてしまう。

 これも女神に与えられた力なのだろうか。


 俺がこの世界で生きていくために、必要な言語能力だけを身につけて転移させてくれたかもしれない。


 魔法は使えないけど、それだけこの世界で生きていくのに少しは楽になる。

「話を聞くだけでなく、言葉も読めるなら図書館で過去の歴史について調べられるかもしれないな」


 異世界とはいえど、歴史的文献を残し、後世に広めるためには書籍は必要だ。

 だから図書館は多分あるだろう。

 そうなればこの世界について少しは知る事が出来る。


 この世界を知るために図書館を探す、そのためには崩壊してない村か、街を探す必要がある。

 だからまず人里を探そう。

 俺はバックを直した後に、売り物になりそうなものを集る。


 道沿いに歩けばどこか違う、人がいる村か町に着く事ができるだろう。

 モンスターと出会った時のために、武具として鉄の剣を腰にし、着替えとして女物の服をバックに詰めて。


 本当は男物の服も欲しかったが、村にない以上は仕方がない。

 しばらく女装生活をする事になるだろう。

 今着ている服を何日も着まわすと臭くなるしすぐにダメになる。


 だから毎日着るのは厳しいだろう。

 女物だからと言って着るのを抵抗すれば今着ている服をダメにする。


 だから覚悟を決めるしかない。

「新しい服を手に入れるまで女装生活を強いられるのは正直嫌だな」


 俺は、服と売り物になりそうな小道具、そして調味料をバックに入れて人を探すために村を出た。


 きっとすぐに別の村について人に会う事が出来るだろう。

 そう思っていた。

 だけど俺の考えは正直甘かった。

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