第5話 捜索
「俺、騙されたのか」
我に帰り、状況を整理する。
何故さっきまで高級感の溢れる服店だったのに今はこんな廃業した下服屋になっている。
考えられる答えは一つある。
こんなすぐに店が潰れるわけがない。
俺の視界だけに、高級な服店の幻覚を見せる何かがあったのだろう。
ここは俺にとって未知の異世界だ。
「くそ、あのジジイ」
最初は転移魔法かもしれないと考えた。
異世界だから、場所と場所を瞬時に入れ替える転移魔法というのもあるだろう。
だけど、それならさっきまで入っていた試着室がボロボロになるわけがない。
しかも、石と金貨を見間違えることは普通に考えてあり得ないだろう。
だから幻覚を見せられていたことを前提にしてこうなった原因を考えよう
男が行った手段として、2つの方法が思いついた。
1つめは外部的に幻影を見せるやり方。
分かりやすくいえば魔法を使って外の光景をそのまんま変えたという事。
馬車の中で魔法をかけられて知らず知らずのうちに男の思い通りに事が運んでしまった。
いや、この服屋に幻覚の魔法がかけられていた可能性もあるな。
それで二つ目は、俺の体内に幻覚を見せる何かを知らずに、摂取していた。
多分これが1番可能性が高いだろう。
俺は馬車の中で、男に提供されたリンゴのような形をした果実を口にしたのだ。
男は、それを食べなかった。
それが幻覚を見せる役割を持った果実なのかもしれない。
アダムとイブが口にした禁断の果実というのもリンゴだったわけだし。
まあ、それは今は関係ないか。
よくよく考えれば詐欺だって気づくことも出来たのに、目の前の金に釣られて冷静な判断が出来ていなかった。
そう思うと自分が情け無くて悔しくなる。
だけど、これ以上このことに関して考えても現状が変わるわけないし、起こったことを変える事なんて出来ない。
過去のことを悔いでいても仕方がないし、ここにいても状況が変わるわけないから何処かに移動しよう。
何処かの異世界にスマホを持った高校生のような、都合のいい上手い話というのは事実存在しないということを実感した。
「それにしても、この服、着心地悪いな」
デザイン性が最悪なだけでなく、着心地だってよくない代物だ。
縫い方が良くないのか、布の繊維が悪いのか所々チクチクして、痒くなる。
安い布を繋ぎ合わせたようなデザインだからこそこれを着て人前に出るのは少し勇気が入りそうだ。
「でも、騙されたと言ってもただの服だし、これは詐欺の中でもまともな方か」
プラス思考と言われるかもしれないが、多分俺は騙された人間の中では、マシな方だろう。
これがもし服まで幻覚であり今、下着で外を徘徊していた。
なんて事になれば俺の異世界生活は始まる前に詰んでいただろう。
YTという有名な動画サイトの広告で出てくる高収入な副業や誰にでもできる投資でという名目で釣って、講義代といい50万以上の高額な金額を、振り込ませる。そんな詐欺に引っかかるよりもはマシだろう。
前世でババア(母親)がそれに騙されてから今の性格が変わったな。
あんな性格だからきっと再婚してもすぐに見限られて別れる事になるだろうな。
「まずは人を探すか」
辺りを見てみると建物は廃墟ばかりで人の気配なんてない。
ここは潰れた村なのだろう。
人がいるか分からないが、とにかくここを徘徊する事にした。
何か道具のような物があればそれを頂いて生活の足しになるものが、探してみればあるかもしれないのだから。
この村を出るときに全てを持って行かずに置いて行っているものがあるだろう。
探せばマトモな服の1着や2着くらい見つかる可能性だって。
まあ、確率はほぼゼロに近いだろうけど、もし金目の物もあればそれを売って生活の足しにすればいい。
そう考えて、俺は近くにある家から順番に一軒ずつ見て回る事にした。
「何かあれば良いけど」
そう物事を簡単に考えていた俺だが、一件ずつ回ることに対しての辛さをこれから思い知らされることになる。
ボロい家だが鍵は付いていて、だけど日本みたいにセキュリティがしっかりしていなく、苦労したが力づくで押し上げられた。
そして中は思った以上にボロボロだった。
玄関先で置かれていたソファーはボロボロでほつれ、所々穴が空いたところから綿が飛び出ていて散乱している。
そして家の裏には外に出る穴が空いていた。
「穴空いているのかよ」
まるで昭和のギャグ漫画みたいにズゴってこける俺。
鍵をかけている意味があるのか。
いや、盗賊が来て鍵がなく壁を開けたかもしれない。
力ずくで鍵を壊して開けられるのにそれをやる意味はないと思うけど。
てか、単純に老化という可能性もあるか。
改めてみると家の中はひどく、床は板が抜けているところがあり、足を踏み外せばすぐに落としてしまいそうだ。
テーブルは何とも無いけど変な匂いするし、椅子は足が折れて正常に立っていない。
一応、2階に続く階段もあるが、1階の天井から2階が見えていると怖くて、とても上がる気になれない。
「これはおそらく無いな」
取り敢えず回れるところは全て回った。
それを一軒一軒繰り返して、これからの生活に役立ちそうな物を最初の服屋に持って行って一箇所に集めた。
倒壊している家もあり、下敷きになっている所から取り出すのは無理なのでそれは諦めた。
「さて、これくらいか」
大体半日くらいかけて集められたものは、鉄製のフライパンに、女物の服が4、5着ほどと裁縫セット。
「どうなっているんだよこれは」
何故男物の服が無かったんだ。神は俺に女装しろとでもいうのかよ。
「ぶさけるなチクショウ」
ただの女物なら良かったけどスカートやワンピースのような物ばかり、正直着たく無い。
いや、自分で言うのもなんだけど、サイズは合いそうだし、女々しい顔だから着たら似合うだろうな。
これを着て「パパお小遣いちょうだい」っていうのが新しい生活か。
絶対に嫌だ、俺は男だ。
男物の服もあるにはあったが、子供用や、服の形を留めていない布切ればかりだった。
あとアクセサリー類のもの、イヤリングや指輪が少ないがあったため持ってきた。
これは服と違い売れば金になるだろう。
食べ物もあるにはあったが、悪臭がしていつの物なのか分からないから手を出すのは怖い。
唯一持ってきたのは塩や砂糖といった腐りにくい調味料だ。
「あとは護身用のために、たまたま家に置いてあった鉄の剣。これは持っていくか」
破れたリュックサックは裁縫道具を見つけたから持ってきた。
破れたところを縫い直せば使うことが出来るだろう。
日が暮れ始めているが、日没前までにはリュクサックを直しておきたい。
「まさか地球でやっていた裁縫がこんな所で役に立つとは思っていなかったな」
前世で、服なんていちいち買い替える金なんて無かったから、破れた物を縫い直して使い続けていた。
だから破れていても裁縫道具があれば縫い直して使う事ができる。
バックを拾い上げたとき、中に入っていた何かが地面に落ちた。
「何だこれ」
拾い上げてみると、それは綺麗な紫色に染まった直径10センチの球体だった。
持った感じ、宝石では無さそうだ。
だけど売れるかもしれないから、これも持っておくべきだろう。
そう思っていたら、目の前で衝撃的な事が起こった。
「うわ、何だ。何なんだ」
球体は突然光だし、手のひらの上で爆発し形を消した。
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