第4話 上手い話には裏がある
馬車に乗り込んだ俺は目の前の男と話をしていた。
「そうですか、田舎の方から移住しにきたのですか」
「はい。親が農家で、人口が30人くらいの村ですね」
勿論作り話である。
異世界人なんて言い出したら何をされるか分からないからだ。
「それでよくそのような服を買うことが出来ましたね」
「え、どういうことですか?」
「いえ、深い意味はありませんよ」
今、一瞬だけ男が不気味な笑みを浮かべたような気がきた。
「そうだ。実は私の実家で果物を作っているのですよ。お口に合えばいいのですか」
「これってもしかして」
それは地球で見慣れた形の果物、リンゴそのものであった。
「え、この果実をご存知で」
「はい。リンゴですよね。昔これが好きでよく食べてました」
「そうですか、はぁ。良かった」
「良かったって何がですか?」
「いえ、深い意味はないので気にしないでください」
今一瞬だけ、男の顔が引きずっていたように見えたが気のせいだろう。
「それではどうぞ、お食べになって下さい」
「頂きます」
食べた瞬間、そのリンゴは変だった。
何故なら口に入れた瞬間、味が苺のような食感だったからだ。
「変わった味ですね」
「そうですか、そのリンゴ?は私の両親が真心を込めて作った果実なんですよ」
「そうなんですか」
今リンゴという言葉に対して、男が疑問系のようなイントネーションで言葉を放った。
この世界ではリンゴという名前ではないのだろうか。
それなら何で、わざわざ名前が違うことに対して言わなかったのだろうか。
男は目の前のリンゴに、手を出していなかった。
「あれ、食べないのですか?」
「はい。私は食べなれていますので、全て食べて下さい。もったいないので」
「それじゃあ、全ていただきます」
俺はその見た目はリンゴで、味は苺の果実を全て食べたのだった。
「それじゃあ貴方のその服についてですが、これで買わせてもらいます」
男は大きな袋を俺の前に差し出してきた。
受け取って。中身を確認すると金貨が沢山入っていた。
「金貨200枚は入っています」
「これって、いったいどれくらいの金額なのでしょうか」
「どれくらいっていうのは生活できるかという質問でしょうか、そうですね。大体ですが城下町にいても、5年間は遊んで暮らせる金額です」
え、そんな大金がもらえるのか。
「如何でしょうか」
「充分です。この服を喜んで売ります」
「それは、ありがとうございます。もちろんこちらで代わりの服も用意しますので」
それって、俺にとって都合のいい事ばかりじゃないか。
とても美味しすぎる展開だ。
「着きましたよ。ここが、私の経営する服屋です」
外装はとても綺麗で人を集めるような建物だった。
「それでは中へお入り下さい」
言われるがまま中に入ると、綺麗なドレスや格好いいメンズの貴族服か沢山並んでいた。
「凄い」
「ここにあるのは最低でも金貨1枚の服ばかりでね、庶民には買えないような品物ばかり扱っているんだよ」
ここにある服の内の一着と金貨200枚で、今着ている学生服と交換か。
美味しすぎる話だな。
「それではきてもらう服ですが、こちらにある青の貴族服とブラックのパンツでよろしいでしょうか」
提示された服はオシャレでカッコいい。
ヨーロッパのコート型の貴族服みたいなデザインだ。
地球で同じものを買おうとすれば20万はかかるだろう。
まあ、コスプレ用であれば一万弱で買えるだろうけど
でも例えコスプレ用だとしても、それで金貨200枚貰えるのは大きい。
「はい。大丈夫です」
「それでは、そこの突き当たりに更衣室があるので、そこで着替えて下さい」
俺は言われるがまま更衣室へと入った。
「脱いだ服は下から出して下さい」
「はい。分かりました」
そして学生服の上下を脱ぎ、カーテンの下から男に服を渡した。
「確かに、頂きました」
男は下から金貨の袋を俺に手渡した。
中身を拝見して、さっき見た金貨袋であり、偽物でないこと確認する。
そして目の前にかけられている服を着る。
するとその服のサイズは俺の体にピッタリ合っていた。
「ちょうどいいサイズです」
俺は試着室の外にいる男に声をかけた。
だけど男の返事は返ってこなかった。
「あれ、おかしいな」
着替えの終えた俺は、金貨袋を持ち、試着室を出ると男の姿は消えていた。
「服屋のおじさん」
大声で呼びかけてみたが、反応がなかった。
「何処に行ったんだ」
服は着たし、金も貰った。
もう用がないと言えば無いけど、お礼の一言くらい言ったほうがいいだろう。
そう思っていたのに何処かに行ってしまったのだ。
「そういえば、この店誰もいないよな」
さっき店主が俺と会った時、外にいたのに店番をする店員が誰もいなかった。
それじゃあ、この店には店番する人がいないのか。
普通に考えたら可笑しすぎる。そんなの服を盗んでいってくださいと、言っているようなものだ。
休業日で、本来は開けていないという可能性もないだろう。
だってさっき鍵で扉を開ける仕草をしていなかったのだから。
「あの、おじさん。何処ですか」
一歩前に足を踏み出した時、突然頭痛と耳鳴りが襲ってきた。
「な、何だこれ」
激しい痛みに襲われて瞬きが早くなり、視界を閉ざした。
そして次に目を開けた瞬間、目の前の光景に俺は仰天してしまった。
何と、目の前にあった高級感あふれる服が全て破れたボロボロの布服で、しかもマネキンがところどころかけているのもばかりが、並んでいた。
さっきまで入っていた試着室はカーテンは所々切れていて、鏡は割れてまともに自分の姿を確認できるような形では無かった。
それでも全く見ることができないほどではない、何枚かに割れた枚数と同じ数自分が写っているのである。
数秒前に自分の姿を確認したのだが少し前に見た姿とはまるで違う服が写っていた。
自分の視界で着ている服を確認してみると有名なRPGゲームに出てくる布の服によく似た服を着ているのだ。
「あ、そうだ。金貨袋は」
さっき貰った金貨袋の中身を再び確認する、その中は金貨ではなく、石ころが袋一杯に入れられていたのだ。
「そんな馬鹿な」
俺は自分の身に何が起きたか理解できずその場で立ち止まってしまった。
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