第3話 異世界へ

「すみません。これが本当の姿なんです」

 はっきり言って驚いた。

「何であんな姿に」


「週一で来る生理が嫌なので生理にならないあの姿になっていたんですよ」

「え?週一って」

 いや、女の子の日については知っていたけどあれ、月一じゃ無かったか。


「あ、人間と違って神は週に1回来るんですよ。それが嫌で生理のこない体に、作り変えたんですよ」


「それじゃあ何であんな姿にしたんだ?」

「自分が書いた絵の姿にしかなれず、私は絵を描くのが下手なので」

 それであんな落書きみたいな姿になっていたのか。


「それに神がこんな美形で美しく、か弱い少女の姿をしていれば、神としての威厳が無くなってしまうで別の容姿にして姿を見せようと」

「その結果、今以上に神としての威厳が全く無い姿になってしまっていたわけか」


「え、あの姿に神としての威厳が無かったのですか?」

「あれじゃあただの小学生が描く、らくがき絵を具現化した未確認生物だぞ」

 いや、小学生の落書きよりも、酷かったなあれは。


「絵が上手く描けないから、下界の人間が思い描く幽霊の姿に王冠を乗せれば、それで神だと信じてくれると思ったのに」

「逆効果だぞあれ、今の方がマシだわ」


「そうですか、それじゃあそろそろ貴方には魔王になってもらうために下界へ降りてもらいます」


「いや、俺その話に了承してないんだけど、まだ話が一向に進んでいないのに、俺が行かされる異世界について詳しく説明してくれないのか」

「すみません。それは出来ません」


 申し訳なさそうな表情をする女神。

「言えない事情があるのか?」

 深刻な顔をしている。

 しかも今にも泣きそうになっている。


 これは深い事情があるのか。

「今まで生理を誤魔化して過ごしていたので、溜まっていたものが一気に出てきそうになってお腹が凄く痛いんです」


 おい、完全に個人的な事でこの話を終わらせようとしているじゃ無いか。

「いや、それならもう少し頑張ってくれよ。未知の世界に放り出されるこっちのことを考慮してくれ」


「無理ですよ。貴方は男だから分からないでしょうけどこれ凄くキツい状況なのですからね」

「そう言われても、確かに辛そうだな」


「このままじゃ、神どころか乙女の威厳も消えて無くなってしまいそうです。あなたは見た目は女の子でも中身は男、だからこの後の大惨事を見せたく無いのですよ」

「おい、今また。見た目女の子って言わなかったか、女らしい顔つきだと言われるけど、俺はれっきとした男だからな」


「そんなのはどうでもいいのです。あぁ、やばい生まれそう」

 てか、こんな話をしていたらコンプライアンス的にアウトだ。

 

 この女神とこのまま居続けたら間違いなくこの世界そのものが消されてしまう。

「分かったよ。早く異世界に飛ばしてくれ」

 女性の方々、目の前の女神が変なこと言い出して本当にすみません。


「頑張ってくださいね。行ってらっしゃい・・トイレトイレ」

 俺はエルレンの生理痛によって、転生させる理由を聞かされる前に異世界に飛ばされたのだった。


・・・・・・


「飛ばされた先は、なんだここ?」

 あたり一面が野原、人里なんて近くにありそうもない。


「確かあの女神、この世界にモンスターがいるとか言っていたよな」

 ヤバいこのままだと、人に会う前にモンスターに出くわしてしまう可能性の方が高い。


 よくある異世界転生や転移ものの小説だと、主人公は神から異世界に行くために魔法や体術といった最強能力を与えてくれるのだが、それはその作品の作成者が都合のいいように物語を作っているだけで実際はそんなことはない。


 俺は、魔法を何一つも与えられていないのだから。

「ファイアー、サンダー、ハイドロポンプ」

 適当に魔法を、唱えてみたが何も出ることはない。


「ステータス」

 異世界ものお決まりのステータス、ゲームのように自分の力や体力を数値で表示してくれるものだが、それすら何一つ出てこない。


「やっぱり効果なしか」

 誰にも見られていなかったから良かったものの、もし目撃されていたら恥ずかしさのあまり衝天するところだったよ。


「とりあえず、人里に向かって歩くか」

 このままここに居続けても状況が変わるわけがない。


 俺は道になっているところを見つけて、その上を歩き始めた。

 とりあえず、このまま歩いていれば、きっと何処かの街に辿り着くだろう。


「さて、お金はどうすればいいか」

 金がなければ何も出来ない。地球の金は絶対に使えないし、どうすればいいか。


 そう思っていると、俺の目の前で馬車が止まった。

 その馬車から30代前後の男が降りてきて俺に近づいてきた。


 あ。そういえば、俺はあの女神に力を与えて貰えていないから、この世界の言葉が分からないかもしれない。


 そう思っていたが、俺の心配は全く不要な事だった。

「ねぇ、君。こんな所で何をしているのかな」


「え、あの。その」

 男の言葉が分かったのだ。

 日本語ではないはずなのに、俺の頭で日本語へと勝手に自動変換してくれている。


 あの神、一様言語だけはわかるようにしてくれたのか。それだけでもありがたい。

「道に迷ってしまって」


「どこ行くつもりなのかな」

「いや、人里に行けるなら何処でも」

「それなら人里に連れてってあげよう」


「本当ですか?」

 それは助かる。何をやるにしても人里に行かない限りは何も出来ないからな。


「その代わりに、君の服を売って欲しい」

「は、どういう意味ですか?」

 服を売ってくれ、いきなりそんなことを言われると誰だって困惑する。


「失礼したね。私はこの近くの町で服屋を営んでいるのだが、君の着ている服が珍しくて、私はその服がどんな素材で出来ているか興味深々なのだよ」


「そうなんですか」

 そうか、俺の着ている服は地球の学生服で、異世界であるここだとこの服は珍しいのか。


「詳しい話は馬車でしたいのだが、乗ってもらえるか」

「あ、はい。大丈夫です」

 俺はついつい言われるがまま、男の馬車に乗り込んだ。


 だけどこの時の俺は、疑いもせず油断をしてしまっていた。

 もしこの世界について女神であるエルレンに詳しく聞いていたら、俺はこの後、後悔することはなかったのだろう。

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