第2話 神の語る真実

 エルレンは自分のことを神と名乗った。

 それなのに俺を魔王にしようとしている。

「何故だ?」

 勇者と魔王は敵対同士の存在。


 神が魔王を討伐して欲しい。

 そんな話はよく聞くけど魔王になれという話は聞いたことが無い。

「貴方も勘違いしている人間ですね」

 

 さっきまでの態度と打って変わって真面目に話している。

 ギャグ感溢れる容姿と違って、この様子を見て調子が狂いそうになる。


 わしゃ神じゃとか言っていた奴が、今では本当の神のような立ち振る舞いをしている。

 神々しさはまったくないけど。


「人は勝手に魔王を悪者にして、私たち神の事を人間達の味方だと思い込んでいる。まあそれは有名な人気ゲームのせいで印象付いてしまってなかなか変えられない、イメージでしょうね」


 エルレンは人間が思い込んでいた、神と魔王が敵対する同士の存在という言葉を否定し、それは人間の勝手に作られた空想だと語った。


 確かに、よくよく考えてみればそんな敵対関係を作り出したのは人間であり、神がそれを言ったわけではない。


 そもそも普通に生きていれば人間が神に合うことなんて出来ないのだから。

「私たち神は地上の生命体たちを管理するのが仕事です。貴方のような地球人の他に、マルガルドに住む生物も全て」


「魔王や、モンスター達もか?」

「そうです」


 この神管理するのが仕事だと言ったよな。

「それじゃあ、その世界の魔物は人間を襲ったりしないのか?」


「いえ、マルガルドに住む魔王や魔物は、人間の生活を脅かします」

「それなら人間の脅威になる魔物は野放しでいいのかよ」


「確かに魔物が暴れ続けているだけならそれを仲裁しないといけません。だけどそれは人間達だって一緒なんです」


「どういう事だ?」

「貴方の住んでいた地球は何を糧にして生きていましたか?」

「何を糧に、それは食事のことだよな」


「そうです」

「人間が食べるものといえば、にんじんやキャベツといった野菜や魚、肉とかだな」

「そうですね。それじゃあ今あげたものに共通するものは何ですか」


 これらに共通するもの、思いつく答えはひとつしかない。

「全てが生き物ということか?」


「その通りです。人間の食べているものの殆どが生き物なんです。いえ、人間だけでなく、動物の殆どが他の生命体を食べて命をつなげていますよね」


 確かに、人間は雑食だけど、ライオンや虎は肉食動物で、シカやシマウマとかを食べて、生きている。

 そのシカやシマウマでさえも、草食動物で草を食べている。


「草や木、野菜も動きはしませんが生き物に違いはありません。勿論人間が食べている肉、その原料になっている豚や牛、鶏は元々生き物です。これらの生物は何のために生まれてきたのか分かりますか?」


「命を繋げるため」

「その通りです。決して食べられるために生まれてきたわけではありません。これらの生き物を食べ物にしているのは人間の勝手な思い込みなんです」


 確かにそうだ。魚も肉になった動物も植物も食べられる為に生まれてきたわけではない。

「ですが、これらを食べなければ人間は生きていけません。世の中は弱肉強食です。地球だけでなくマルガルドも同じです。」


「つまり、魔物は人間の生活を脅かしているけど、それは生きる為で、人間も生きる為に魔物を食べるという事か」


「そういう事ですね。だから基本的に神は下界に干渉しません。ですがやりすぎてしまう場合は制裁を加える事もあります」


「制裁を加える?」

「人間は、必要以上に生命体を殺す事がありますからね。そういう時は自然界の力を使って行き過ぎた行動を抑えるのですよ。火山を噴火させたり、地震を起こしたり、津波を発生させたりいろいろしています」


「それじゃあここ100年で自然災害が増えた理由はエルレンが」

「人間達の行動が度を超えているので罰を与えているのです」


 あれ全部このエルレンという神が起こしていたのか。

「それで何で俺に魔王をしろと言うんだ」

「それは、神の世界では貴方が、異例な存在なのですよ」


「異例って、どう言う事だ?」

 異例と言うことは、俺が何かおかしなところがあると言うことだよな。


 人間なんて様々な個性があるのに、異例というのは何のことだ?


「そうですね。詳しく説明するなら人間、だけでなく下界に住む生物達はどんな生き方をするのか。実は神の予定調和文書によって決められているのです」


 エルレンはそう言って俺の目の前に1冊の真っ暗な本を何もないところから出した。

「つまり、俺たちが住んでいた世界の出来事が全てが、神の持つその予定調和通りだと言うことか」


「そうです。下界の全ての生物いつ何処でどのように生まれて、どのように生き、どんな死に方をするのか、全てこの本一冊に書かれているのですよ」


 なるほど、つまり俺の異例とは、そう言うことか。

「それじゃあ俺が子供を庇って死んだ事で予定調和が狂ったのか」


 こいつは、子供を庇った事による俺の死が無駄なことをさっき語った。

 つまり、あの事故で誰もしな無かったと言う事になる。


 俺は本来、あそこで死なない人間だったと言う事になる。

「いえ、違いますよ」

 だけどその言葉に対してエルレンは首を横にふった。


「あなたの存在そのものが、異例なのです」

「どう言う事だ?」

 エルレンは予定調和の本のページを開いた。

「守仁光さん。あなたは本来16歳まで生きられる人間ではないんです」


「え、何だそれ?」

「この予定調和では、名前がない状態で死んでしまう、存在だったんですよ」


「名前がつく前に死ぬだと」

「はい。ですからこの予定調和には守仁光と言う名前の人間は存在しません。生まれてすぐに死んでしまう赤子」


「じゃあその予定調和に無い人間だから予定調和に合わせるために俺はあそこで死んだのか」


「その可能性が高いですね。あのまま生きていれば近所に住む幼馴染の女の子と結婚していたでしょう。そうなると本来結ばれる人と結ばれずに、誕生するはずの子供が存在しなくなってしまいますからね」


「そうなのか」

「ちなみに、あなたの父親は予定調和では子供が出来る前に他界して、母親は30後半でようやく結婚し、その時に子供を授かり育てます。あなたの時と同じ出来婚ではありますがその子は予定調和がある子供ですね」


 つまり狂った歯車を噛み合わせるために俺は死んだわけか。

「それじゃあ、俺に魔王になれと言う理由は、本来俺の魂が、今頃魔王の子供として産まれ育っていたからと言うわけか」


「それも違います。予定調和に貴方は魔王の子供として生まれていません」

 え、それも違うのか?

「それじゃあ何で魔王になれと」


「何となくですね」

「何となくってなんだよそれ?」

 意味がわからんわ。


「魔王が似合いそうだったから。ほら貴方性格悪そうですし。しかも見た目可愛いから」

「おい、その一言は余計だ」


「それに、カレー臭の漂うおっさんより、女の子みたいな男の子が魔王になった方が目の保養になりそうだったから」

「個人的な思考じゃねぇか。じゃあ女の子の方が良かったんじゃないのか」


「それは嫌です。女の子にしたらぶりっ子なんてしてストレス溜まりそうなので」

「何でぶりっ子する前提で考えているんだ」

 そんなの人それぞれだし、それに常時ぶりっ子する女なんて殆どいないだろ

 よく分からないなコイツ。


「マルガルドは地球と違って予定調和が完全では無いのです。地球は一本道になっていますが、マルガルドには複数のみちがあるのですよ」


「つまり予定調和がパラレルになってると言う事か?」

「はい、魔法のある世界なので予定調和が正常に機能されません。なので地球と違って予定調和が何万冊もあるんですよ。ですが」


「ですが?」

「何万冊もある予定調和の集大が最後だけは同じ終わり方をしているんですよ」

「同じ終わり方だと?」


「はい。今から3年後に人間同士の争いと自然破壊、そしてモンスター達を根絶やしにしたことによりこの世界は崩壊します」

「崩壊」

「その理由は人間達が16年前に魔王を倒してしまったから、そのせいで世界は破滅に向かう事になるのですよ」


「何で人間が魔王を倒したから世界が崩壊するんだ?」

「その理由は今から話しますね」

 そういうと、目の前の落書き生物が強い光を放ち、姿を変えていく。


 そして目の前にいたのは。

「え、女の子」

 さっきまでの落書き生物は青髪白眼の美少女になった。

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