異世界で魔王生活を始めます
小林 祐一
第1話 死後の世界
「わしゃ神じゃ」
突然そんな事を言い出したのは得体の知れない不気味な生き物。
全身真っ白の幽霊みたいな姿で金の王冠を被り顔がヘノヘノモヘジの、まるで小学生が落書きをしたような絵の未確認生物が俺の前にいた。
「わしゃ神じゃ。神じゃ、神。神なのじゃ」
この状況意味がわからない。
「お前誰だ」
「何度も言っておろう。わしゃ神じゃ」
「あ、そう」
「おい、寝ようとするな」
これは悪い夢だ。寝ればきっと現実に帰れるはずだ。
「現実だ起きろ。神の前で寝るな」
やかましい化け物だ。
「そんな子供の落書きみたいなやつに神だと言われてもな」
「言ったな。わしに対して言ってはいけない事を言ったな」
「はいはい。本当に酷い悪夢だ」
「だから寝るなと言っておろうが」
背中を小突いてくる。
「ワシは神だぞ。神の前で寝るな」
「ウルセェんだよ」
俺は未確認生物の、尻尾の先端を掴み振り回した。
「回すな。神に酷い扱いをするな。しないでくれ、私が悪かったからやめてくださいこの状況について詳しい事情を話しますから離してください」
「分かった」
「あの。ゆっくり、ゆっくりとお願いします」
「注文が多いな・・・あ」
遠心力に振られて俺は勢いがついたまま未確認生物の尻尾を離してしまった。
「ゴブゥ」
見えない壁に当たり、体が何かに踏まれたかのようにペラペラになっていた。
この世界はギャグ漫画なのか?
「酷い。なんで酷い事をするんだ。私は神、神なのに」
元に戻った瞬間に目の前で泣き始めたラキガキ生物。
「あ、振り回されたせいで酔った。気持ち悪い。吐きそう」
「おい、待て。吐くな」
「オヴェエェエ」
口から嘔吐物が出てくる。
「うわ、汚ねぇ」
しかも俺目掛けて、汚物が一直線に降りかかってきた。
「やべ貰いゲロしそう。ウェエェエ」
・・・・
ただいま汚い状況が繰り広げられています。しばらくお待ちください。
・・・・
数分後、未確認生物は汚物を綺麗に除去をしてようやくまともな話が出来る現状になった。
「こんな事をしてくる人間初めてですよ」
「それで、これはどういう状況でお前は何者なんだ」
「それでは改めて説明をしましょう」
ゴホンと咳払いをし、落書きは俺に視線を向けた。
「ここは死後の世界。そしてここにいるこのワシはエルメルトローレン。地球とマルガルドの2つの世界を管理する神じゃ」
「死後の世界?」
「そうじゃ、お前は地球で死にここへやってきた。ワシの名前に関しては気軽にエルレン様と呼べばいい」
「偉そうだな。わかったよエルレン」
「おい、エルレン様と呼べと言っただろ女もどきの少年よ。ワシは神だぞ。偉いんだ」
「もう一回ローリングして欲しいなら望み通りにしてやるぞ」
「やめてください。すみません、謝りますから2人揃ってゲロする、そんな光景を繰り返さないでください」
顔を引きずっている。
振り回される事がそんなに嫌だったのか。
「それで自称神であるエルレン。何で俺は死後の世界とやらにいるんだよ」
「それはですね。貴方は車に轢かれそうな子供を助けようとして頭からボディにぶつかりました。記憶がないのはその衝撃のせいでしょう」
あ、そうか。思い出した。
俺は事故で轢かれそうになった子供を助けようとしたんだ。
4車線道路で速度超過の蛇行運転したスポーツカーがいて、そんな車の前にサッカーボールを拾おうと子供が車線に飛び出したんだっけ。
それを見た俺は咄嗟に車線に出て子供を庇ったんだった。
庇うように子供を抱き抱えて。
それで俺は死んだのか。
「なるほどね。今思い出したわそれでその子供は無事だったのか」
「えぇ、無事でした。だけど」
だけど、今そんな言葉を言ったよな。
「まさか俺が身代わりにならなくてもその少年は助かった。というオチじゃ無いだろうな。サッカーボールがクッションになったとかで」
そんな1世代前に流行った不良高校生の物語の始まりみたいな形で。
「いえ、そんなことはないですよ。アニメや漫画じゃないのですからサッカーボールがクッションにはなりませんよ」
「そうか。なら無駄にならなくて済んだのか」
「いえ、貴方の死は無駄です。何故なら車は子供に当たらなかったのですから」
「え、どういうこと」
当たらないって何?
「貴方を轢き殺した車はギリギリで子供との接触を避けられたんですよね。車は追い越し車線へ、子供は身をかわすように歩道の方へ身を傾けて」
「え、じゃあ事故にならなかった。という事」
「はい。速度超過した車は本来、そこから1キロ先にいる警察に捕まって速度超過によって免許を剥奪されて2度と車に乗ることはありませんでした」
「マジかよ」
「あ、無傷で済んでいた子供は貴方前に出た事により、車の接触の衝撃を受けて、右肩と左足を骨折しました。治る傷ではありますけど。全治2ヶ月。しかも免許没収だけで済んだドライバーは殺人の容疑で警察に出頭することになりました」
「おい、何処かの妖怪漫画の始まり以上に酷いじゃねぇか」
「大丈夫ですよ。引きこもりの異世界転移小説の始まりよりもは酷くないですから」
「フォローになってねぇよ」
死んだ俺は、この後どうなってしまうのだろうか。
正直まともな人生を送ってこなかった。
父を早くに亡くし、母は毎晩家に男を連れ込んでいた。
そのせいで俺は性格が荒れて、毎日のように喧嘩に明け暮れる日々になっていた。
目の前に意気がる不良を見つけて、そいつに腹が立ったら喧嘩を挑み徹底的に痛みつけた。
弱い人間から金をたかる奴、老人を前にして優先席に居座る奴、そのほかにも色々。
腹が立った瞬間に手を出していた。
俺は喧嘩が強かった。
10人くらいならまとめて相手をしても余裕で勝てるぐらいには。
何人もの不良を病院送りにして、学校では非行生徒と言われていた。
だから学校に居場所なんて無かった。
母も俺のことは邪魔者扱い正直生きている価値なんて全く無かった。
「どうでもいいけど、さっきと態度が全然違うな」
「またローリングされたくないので、暴力反対です」
「そうか。それで俺はどうなるんだ。人を散々殴っていたんだ。地獄に連れていくつもりならさっさと連れていけ」
「何か勘違いしていますね」
「勘違いだと」
「私は貴方に異世界で魔王になって欲しいと思っています」
「え、魔王?」
エルレンの言葉に俺は驚いた。
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