第5話 放課後
※マイモブダーリン視点です
一目で恋に落ちた───
焦げ茶色のふわふわした髪、コバルトブルーのつぶらな瞳、鼻に薄く散っているそばかすがなんともいえぬ愛らしさを醸し出している。
道端に咲く名も知らぬ花のような可憐な少女。
学園入学前に父に言われた事を思い出す。
「隣の領地の娘に婚約の打診をしようと思う」
父ー!グッジョブ!!
僕はすぐさま話を進めてくれ、と文を出した。
そして、図書館へ行き植物図鑑を開く。
あの小さい青い花の名前が知りたい。
パラパラとページをめくると割と最初の方で見つかった。
『オオイヌノフグリ』
なるほど?そういう名前なのか。
由来は・・・は?
なん・・・だと・・・?い、犬のキャンタマだとー!!!
しかも、大犬?猟犬とかってこと?
なんであんな愛らしい花がキャンタマなんだ!
なになに?
別名『星の瞳』
落差!この落差!キャンタマと星の瞳!
なんでこっちが浸透しなかったかなぁ。
いや、しかし調べて良かった。
顔合わせの時に
「オオイヌノフグリのような綺麗な瞳ですね」
とかなんとか言うところだった。
どこの世界に犬のキャンタマに例えられて喜ぶ女がいると思う?いやいない。
顔合わせは実にうまくいったと思う。
初めて聞いた声も高すぎず、かと言って低いわけでもない。
ちょうど心地よい声音。
相手を立てるのが上手いのかな?ついつい色んなことを話してしまう。
うちの領地には療養所はないとか、親しい幼なじみはいないとか学園での友人関係であるとか、これは僕に興味をもってくれてるのでは?とつい舞い上がってしまう。
最後に彼女は、ほわんと笑って
「よろしくお願いします」
と言ってくれた。
彼女はとても地味で極力目立たないようにしていると思う。
だが、それはこちらにとっても好都合だ。
どこぞの高位貴族なんかに目をつけられてはたまらない。
ましてや王族なんぞに目をかけられた日にゃあ、お先真っ暗だ。
何をどう足掻いても太刀打ちできない。
たまにいるのだ。
ギラギラゴテゴテの宝石に飽きて、野に咲く花に惹かれるような男が。
グロリアは絶対に渡さない!
そう決意し、僕はできるだけグロリアの傍にいるようにしている。
そうするとグロリアのあれこれがよく見える。
グロリアは単純に目立たないようにしているわけではない。
そこには緻密な計算と洞察力がある。
常に周囲を意識し、可もなく不可もない言動を心がけている。
学園ではいくつかの噂が流れている。
グロリアはその噂を耳ざとく集めているようだが、決してそれを自分から吹聴しようとはしない。
そして、件の二人の逢瀬に遭遇した時に知ってるはずなのに驚いた顔をしていた。
確かに、ここで白けた顔をすれば違和感がある。
僕の方が思わず、なんか見ちゃいけないとこ見ちゃったね。なんて白々しいことを言ってしまったほどだ。
ある時友人に婚約者を紹介しろ、と言われて渋々会わせたことがある。
僕より長身で見目の良い男だ。
一見優男だが、その実女癖が悪い。
子爵の三男坊の彼は遊びたい放題だった。
そして、グロリアはキラキラした目で彼を見つめていた。
終わった、僕はそう思い落胆した。
だが、ポツリと呟いたグロリアの言葉を僕は聞き逃さなかった。
僕の耳は高性能グロリアキャッチャーだからだ。
「ま、こんなもんでしょ」
グロリアは僕の友人の性格を完璧に把握していた。
女にモテる彼の近頃の口癖は、『この私に見向きもしないような女を落としたい。落とす前に落ちてる女は飽きた』だった。
さすがグロリア、彼の周りに侍る女と同じことをして撃退するとは・・・。
そんなこんなで僕とグロリアは無事に学園を卒業し、領地で結婚式を挙げた。
卒業記念の夜会ではなにかゴタゴタがあったらしいが、グロリアと食べたカナッペが美味しかった事しか覚えていない。
純白のドレスを纏ったグロリアは美しい。
愛する彼女とならいくらでも頑張れる気がする。
「グロリア、僕頑張って領地を盛り上げるよ」
「あら、旦那様?なんでも程々がいいんです。出る杭は打たれると言いますでしょ?」
うふふ、と笑うグロリアは可愛さが留まるところをしらない。
一生一緒に歩いていく、そう誓った僕の心はもうキュンキュンです。
正しいモブのススメ。 谷絵 ちぐり @rakssf5886
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