第3話 3時間目

突然だが修羅場である。


乙女ゲームではいくつかの修羅場がある。

よっ、ナイススパイス!と声をかけてあげてほしい。

もちろん、脳内で。


私もそんな修羅場にまさに今、遭遇している。


ヒロインが何人かの令嬢に囲まれているのだ。

心情的には助けてあげたい。

しがない男爵令嬢になにができるかわからないが、多勢に無勢ではヒロインが可哀想である。

だがしかし、


「そこでなにをしている!」


あ、来た。

つまりそう、そういうことである。

最後まで成り行きを見守ってはいけない。

『目撃者』として、証言を求められては困る。


「私、見てました」


そうそう、モブAかモブBに任せればいいのである。

私は所詮モブGなのだ。

最大限のステルスを発揮して私は去る。

ナイスモブ!グッジョブ!と脳内賛美を自分自身に送る。



「グロリア、探したよ。早く帰ろう?」


マイモブダーリンに愛しさが止まらない。

マイモブダーリンがいなければ、私はもしかしたらヒロインを囲む令嬢の中にいたかもしれないのだ。

くわばらくわばらである。

ヒロインを蹴落とせば自分が繰り上がるかもしれない、なんていうお花畑にはなりたくない。

マイモブダーリンさまさまである。

BがLしなくてほんとに良かった。

どこぞの美形にかっさらわれるところであった。

もしそうなれば、多額の慰謝料を請求する所存。



引き続き修羅場である。


学園内カフェテリアにて、マイモブダーリンとランチしていた所、修羅場発生である。

よっ、ナイススパイス!


ヒロインがトレーを持ったまま転んだのである。

うむ、誰ぞ足を引っ掛けよったな?

ザワつくカフェテリア、転んだそばのテーブルのニヤつく令嬢達。

野次馬が集まるようだ。

さて、前段で野次馬に徹するべしと言ったと思うがこの場合は違う。

一人でいるのならば寄っていくのが正解であるが、今はマイモブダーリンがいる。

そういう場合は席を立ってはいけない。

心配そうに転んだヒロインを見るに留めるのだ。


「なんか音したけどなんかあったの?」


チキンソテーをもぐもぐ頬張るマイモブダーリンの可愛いさがとどまるところを知らない。キュンです。



「大丈夫か?」


ほい、来た。

メインステージではなにやらキラキラ劇場が始まったようだ。

よし、私はモブステージでマイモブダーリンのもぐもぐタイムに集中しよう。

モブの出番はもうない。


「グロリア、美味しいね」


もう、キュンキュンです。

メインを張れないモブにもアオハルする権利はあるのだ。

ただ、ものごっつ目立たないだけで。

私はそれでいいと思ってる。

転生モブは概ね対策の方向が間違っているのだ。

だからすぐに、モブからメインへの階段を駆け上がってしまう。

そして、なんでなんで?なんて言うのだ。

第一級底辺モブからしたらフラグ建てまくっておいて何言ってんだ案件である。

真のモブになりたい者はなにもしない、これに尽きる。


モブになりたい良い子のみんな覚えてくれたよな?

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