本当に除霊できないか検証してみる 2
「お主、呪われておるぞ!」
「だから、さっきそう言ったじゃない。あたしの話聞いてたの?」
呆れたように霊媒師を見下ろす鈴。
珠江の紹介で、除霊のできる霊能力者を片っ端からあたっている最中だったのだが、今回もハズレの気配がする。
そうこうしているうちに”十和子”が刻一刻と接近している。急いで見極める必要があった。
「あんた、さっきあたしが呪われてるって言ってたわね。どんな奴が憑いてるか見えるの?」
「むろん。お主の背後には凶悪な蛇の霊が憑いておる。蛇は残忍かつ冷酷な性格でな。憑りついた者に次々と不幸を呼び寄せ、苦しむさまを眺める悪質な霊なんじゃ」
そこまでを一息にまくしたてる。十二分に相手に恐怖心を与えられるように、間のとり方や抑揚のつけ方などを工夫してきた。
今回も、修二のように震えあがるに違いない。そう確信していた。
しかし、鈴と珠江は残念なものを見るような目で互いに視線を合わせる。
「すいません、先輩。今回もハズレだったみたいです……アレが蛇に見えるとか、眼が腐ってるとしか思えません」
「早合点は禁物よ。物の見え方は人それぞれ。彼には”十和子”が蛇に見えているのかもしれないわ」
「でも、背後にいるって言ってませんでした?そもそも十和子はさっき数キロメートル向こうに置き去りにしてきたばっかりですよ?」
「確かに、かなり怪しいわね……」
霊媒師を置き去りにして、勝手に疑いを深めていく二人。
理由は分からないが、とにかく怪しまれていることだけはわかったようで、霊媒師は挽回するように次のセリフを読み上げる。
「お主、最近不幸な目に遭うことはないか?仕事がうまくいかなかったり、理不尽な仕打ちを受けたり。そういうことはないか?」
「最近どころか、生まれてこの方ロクな目に遭ってこなかったわ。母親は早くに他界し、それ以降父は訳の分からないギャンブルにはまって借金地獄。私自身も、実験をしたら不慮の事故で職場を転々とする始末よ……」
「改めて聞くと、先輩の半生ってなかなか壮絶ですね……」
「それで、あんたはこの不幸が呪いのせいだって言うのね?」
「そ、その通りじゃ!」
話に乗ってくれたことがうれしくなり、つい声も大きくなる。
しかし、続けざまに鈴の冷静な声が霊媒師を貫く。
「それで、その呪いとやらは具体的にどうやってあたしを不幸にしたわけ?」
「……は?」
「だから、その蛇はどういう手順であたしに不幸を押し付けてきたのかって聞いてるの。母はガンで亡くなったわ。蛇の呪いとやらがガンをどうやって誘発するのか説明して頂戴」
「そ、それは……呪いの持つ負のエネルギーがお主の周囲の者に悪い影響を与えてじゃな……」
「ちょっと待って、何言ってるかわかんない」
珠江と修二は、鈴のそのセリフを聞いて速やかに部屋の隅っこに避難した。
相手が言っていることがあまりにも理解できないことを何より嫌う鈴。それが極まると、さっきのセリフを吐いて誰彼構わずに詰め寄るのだ。
一か月前。学会の質疑応答で、高名な大学教授に同じように詰め寄る鈴の姿を、修二は鮮明に記憶していた。教授は半泣きになり、鈴は減俸半年を言い渡された。
「負のエネルギーって何のこと?ガン化させるのであれば放射線のことを言ってる?それとも、別の何かなの?それに悪い影響って何よ?細胞のがん化以外にどんな効果をもたらすのか、もっとはっきり説明して頂戴!」
長年相手を威嚇し、恐れさせる演技を研鑽してきた霊媒師であっても、これほどの迫力を出すことは到底できないだろう。
こうなってしまった鈴を抑え込むには、相当の知識と忍耐力が必要とされる。
そのどちらも持ち合わせていない霊媒師は、ただ沈黙することしかできなかった。
「黙ってないで、1つでもいいから説明して頂戴。負のエネルギーってのは何のこと?」
「……呪いが持つ、人を不幸にする悪い波動です……」
不可解なワードに、鈴の眉根がピクリと跳ねる。
「波動?あなたまさか、超音波を当てるだけで細胞がガン化すると言うの?どこの論文でそんな発表があったわけ!?」
「いえ、そうではなくて……。我々霊能者だけに見える特別な波動でして……」
「波動が目に見えるわけないでしょ?じゃあ、あんたの眼にはその辺を飛び交ってる電磁波まで見えてるって言うの?じゃあ、あたしがどっちのポケットに携帯が入ってるかあててごらんなさいよ!」
「ええと……その……」
言い淀む霊媒師。しかし、こうなってしまった鈴は相手が泣いても喚いても質問をやめない。
事実、霊媒師の眼にはちょっぴり涙が浮かんでいたが、そんなことを気にする鈴ではない。
「先輩!そろそろ時間です。早く逃げないとアレに追いつかれます!」
「ちょっと待ちなさい!まだ聞かなくちゃいけないことが山ほどあるの!」
「そんなの、どうだっていいでしょ!」
力づくで引っ張り出される鈴。単純な体力では珠江に分があるため、喚きながらも部屋から徐々に引きずり出されていった。
「……」
「……」
部屋に取り残された修二と霊媒師は、気まずそうにその場に座っていた。
気を取り直すように咳ばらいをすると、霊媒師はおもむろにこういった。
「どうだ。この破魔札を半額に負けてやろう」
「結構です。帰ります」
修二は、そそくさと鈴の後を追って部屋を出ていった。
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