第2話 区役所の公園係

「トイレの反乱……ですか」


 区役所に採用され、公園係に配属されて二年になる若手職員の戸入といれは、先輩の話を聞くなり自分の耳を疑った。とはいえ、目の前の先輩は真剣な表情をしている。決して悪ふざけではない。


「そうとしか言いようがねぇんだよ。はぁ……最初聞いたときはワケわからなさすぎて頭痛くなったわ。あの公園だけじゃない。世界中で同時多発的にトイレが暴発してるそうだ」


 一つ上の先輩……たいらは机の上で両手を組み、大きなため息を吐いた。この女性職員は、その口調や身長の高さ、おまけに胸がほとんどないことで、男性によく間違えられるらしい。背が低く柔和な顔立ちのせいで女の子に間違われたり女装させられたりしていた戸入とは、全く正反対の人間である。


「今現場はどうなってるんですか?」

「男の死体が発見されたんで、警察がホトケさんを回収したんだけどよ……トイレのヤツ、警察にも攻撃を仕掛けたらしい。何とか死体は運び出せたらしいが……二名の殉職者が出たそうだ」

「ええ……? っていうかよくわからないんですけど、トイレが何したんですか」

「アレだよ、下水道から、思いっきり噴射したんだよ。ウォータージェットってあるだろ?」

「ああ、ものすごく強い水鉄砲でものを切ったりするやつでしたっけ」

「そう、それと同じだよ。遺体はもうズタズタだったらしい。万が一死ななくても、がアレだろ? 実際、殉職した警官のうちの一人は傷口から汚水がしみて敗血症になっちまったんだとよ」

「ええ……?」


 公園のトイレが、下水を武器に人を襲った……全くわけのわからない事件だ。しかも、すでに死者が出ている以上笑いごとではない。しかもそれが、世界の色んなところで怒っている……戸入はめまいがしたような気分になった。


「とりあえず、友人のツテで凄腕のトイレハンターを呼んである。明日、そいつと現場に急行だ」

「と、トイレハンター……?」

「暴れ出すトイレを鎮めるプロの業者だそうだ。そのハンターはつい先日、ベトナムのホーチミンで死者を出す前に暴走トイレを鎮圧したらしい」


 にわかには信じがたい話だが……同じような事件が他国でも起こっているらしいことを考えると、そうした専門職がいるのもうなずけなくはない。


「何はともあれ、明日現場だ」

「……はい」


 頭の痛くなる仕事だった。戸入がため息をついたのと同じタイミングで、平の口からもため息が漏れ出た。

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