パパとのお昼
パパが仰向けに、縁側で寝そべっている。帽子で顔を隠して、手は頭の下で組んでいた。
「そんなところで寝てたら風邪引くよ」
私は薄い毛布を掛ける。
「邪魔だ」
途端、パパは手で払いのけて、その手をまた頭の下で組んだ。
「風邪ひかれたら困るもん」
「これくらいで風邪引くかよ」
「私は引いたもん」
「俺とお前は違う。だいたい、毛布を掛けて寝る奴の気が知れねぇ。こういう夏の日は、日に当たって寝るって相場が決まってんだ」
「でも、明日お仕事なんでしょ?だったら、体調気をつけないと」
「だからこうして、体を休めてるんだ」
「だから、こんな休み方は体によくないよ」
「ったく、うるさいガキだな」
「うるさいもん。だって、パパにはずっと元気でいてほしいもん」
「お前は俺のパートナーじゃねぇんだ。どっかへ行ってろ」
また手を解いて、っしっし、と仕草をする。
「ふん。これで風邪引いたって、知らないんだから」
私はぷりぷり頬をふくらませて、不機嫌で去っていった。
けれど、夏の盛りは、昼寝をするには丁度いい季節だ。特に、うちの縁側は程よく風が通って、適度に日陰で、猫がよく来て、寝ている。
そんな猫に、おじいちゃんはエサをやって、よくおばあちゃんに叱られていた。
でも、今でもおじいちゃんはこっそり猫にエサをやっている。私も、こっそりエサをやっていた。
「こうしてな、縁側で猫を撫でていると、なにもかもを忘れられるのだ」
同感だった。なにもかも忘れられた。それが、堪らなく気持ちよかった。きっと、おばあちゃんにはこの感覚がわからないのだろう。それとも、忘れてしまいたくないなにかが、おばあちゃんにはあるのだろうか。
「ふぁ……」
そこで、欠伸が一つ。
「私も、少しお昼寝しようかな」
昨日はおじいちゃんと庭仕事をしてたから、ちょっと疲れたのかもしれない。
三十分くらい寝よう。
いそいそと、パパとちょっと離れたところに寝っ転がって、目を閉じた。
夏の風が頬を撫でる。昔の人は、極楽の余り風なんていったらしいけど、本当にそうだ。きっと極楽には、こんな風が吹いてるんだ。顔も名前も思い出せない、私の本当のパパやママも、今頃はこうして同じように、縁側で寝そべっているのかな。
「うつつにはさもこそあらめ夢にさへ人目をもると見るがわびしさ……」
小町の一首を口ずさんで、私は夢の中へ溶け込んでいく。誰かが、傍へやって来た、気がした。誰だったかは、わからない。パパや、ママだったらいいな。
「俺に散々いっておいて、いい気な奴だ」
数時間後、目が覚めた。辺りはもう、夕まぐれだった。
薄い毛布が一枚、掛かっていた。
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