思春様との夜

 もにゅもにゅと、私の頬を柔らかいものが包む。

「ん、ぅ……、……?」

 私はその正体を探ろうと、無意識に手でその物体に触れた。

「ん、ぁ……、ふぅ」

 途端に、誰かの甘い吐息がきこえる。

「いくら我が良き人でも、そうあるがままに求められると、照れてしまいます」

 その声をきいても、私はまだ微睡みを漂っていた。

「だって、これ……、すごく気持ちいいから……」

「おや?我が良き人は、私の乳房をご所望ですかな?ふむ、まあ、良き人がその気であれば、吝かではないですが……」

 ち、ぶさ……?

 その言葉を頭に思い浮かべた瞬間、私の意識は瞬時に覚醒する。

「は、ぁ、ふぅぅあああああああ!!!!??????」

 そこには、ベッドの上でそのものを少しこぼしながらも、優しく私を抱き包んでくれている思春様の姿があった。

「お目覚めになられましたか?我が良き人よ」

 屈託のない笑みが私を見つめる。

「ど、どどどど、どうして、し、しし、思春様ががが……????」

 呂律の回らない私を気にもしないで、思春様は頬に口付けをし、また優しく微笑む。

「覚えておられませんか?昨夜はなにやらお疲れだったご様子。『慰めて~~~』と私の胸に飛び込んでこられたのは、良き人からだったからではありませんか」

 あ、ああ~~。そういわれればそうだったような。昨日は件のいじめの一件で、方々頭を下げに回ってたから、疲れたんだよな~~。

 じゃ!な!く!て!!!

「ととと、とりあえず!!!思春様から離れたいんですけど!!!????」

 顔を真っ赤にさせながら、ない力を振り絞ってもぞもぞと思春様の腕から脱出しようと試みるが、思春様はそれを許さない。

「いけません。あれほど疲れていたのですから、今日はお休みになられてください。幸い、私も明日は特に予定はありませんので」

「そ、そういう問題じゃないんですけど~~~」

「ささ、もうひと眠りいたしましょう。こう見えても、子供を寝かしつけるのは得意なのです」

「だ、だから~~~。そういう問題じゃないって~~~~」

 とはいうものの、私にそれ以上足掻く力が残されていないのも事実で、すっかり寝かしつけられてしまった私は、朝起きたら、まずまだ子供扱いしてくるこのとびっきり美人な奥さんに、とにもかくにも甘やかしてくれたことのお礼だけは、伝えなければと思いながら、また微睡みの中に意識を漂わせることになった。

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