おばあちゃんとの夜
「座れ。今日はまあ、星目でやろう」
今日の縁側はおばあちゃんが占領していた。置かれている碁盤は偉い先生からもらったそうだけど、随分古ぼけていた。
「流水先不争。流れに逆らうと碌なことがないのが世の常なのだが、それがなかなか人間には解せぬものなのよ」
煙管で一服しながら、おばあちゃんは右上の三々に打った。
「時にいちご、風呂は済ませたか?」
「まだ、おばあちゃんと打ちたかったし」
「さもあろう、と言いたいところだが、乙女がそのように身を粗末に扱ってはならん。一日の汚れを風呂場で軽く洗い流すのは、なかなか心地よいものだ。今日はこのくらいで打ち止めにして、明晩打ち直そう」
「やだ。まだおばあちゃんが一手打っただけじゃん」
「手前は一睨み二千手。其許は明後日。どう転んでも、手前が勝つに決まっておる」
「じゃあ、なんで私と碁を打つのがおばあちゃんは楽しいの?」
するとおばあちゃんは少し黙ったあと
「昔、手前が手を焼いた童がいた。其許はその童によく似ている」
そこでまたちょっと間があって
「……、守ってやりたい、などと、どこで人らしき情念を覚えたのか。宗近と一緒になるのではなかったわ」
そう口ではいって、でもおばあちゃんはどこか、笑っているように見えた。
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