出逢い

 両親の遺体が発見されたのはその数日後のことだった。


 家からさほど離れていない海に車ごと沈んでいるのを発見されたのだ。


 警察は亜久里の話と状況からいって自殺という判断を下した。


 もちろんあの電話から察するに有り得る話だろう。


 だが亜久里には納得できない部分が多い。


 なぜ自殺したのか。しかも娘が帰る日で楽しみにしてきたはずの両親が自殺を選ぶ理由がどこにあるのか。


 亜久里は両親が自殺したという事実を受け入れることができないまま、葬儀を終えることになった。葬儀には多くの人たちが香典をあげにきてくれた。そのなかには亜久里の同級生や同僚の姿もある。


 だれもが亜久里を憐れみの目でみて、なかにはなぜ自殺したのかと憶測を飛ばす声も聞こえた来るのだ。その中にはやはり悪意のあるものもあった。



 父親が借金していただとか。


 母親が浮気していただとか。


 根も葉もないことばかりだ。


 そんな両親ではない。


 父はごく普通のサラリーマン。


 母はスーパーでパートとして働いていた。


 とくに贅沢することもなく最低限度の生活をしているだけの平凡な家庭だ。だから父が借金することもありえないし、父にぞっこんな母が浮気することもありえない。


 ならなぜ自殺なんてしたのだろうか。


 ただの事故のほうが納得行くのではないか。


 事故ならあの電話はなんだったのか。


 疑問ばかりが残る。


 けれど、その答えを亜久里にもたらすものなど誰もいない。


 もしかしたら、亜久里が離れている間にとんでもないトラブルに巻き込まれてしまったのかもしれない。



 なにもわからないまま帰ってきた両親の体は傷だらけでその表情は歪んでおり、決して安らかなものではなかった。目をそらしたくなるほどの死に直面した亜久里は涙さえも浮かばずに淡々と葬儀の喪主を務めていた。


 そんな彼女の様子に葬儀へとやってきた人たちは「両親が死んだのにどうしてあんな平気なのかしら」とか「冷たい娘ね」と心無い言葉が耳に届く。


 たしかに彼女は感情表現は得意な方ではない。友達からよく何を考えているかわからないと言われてしまうほどだった。



「なんかひどい言い方!亜久里が悲しんでないわけないじゃん」


「私は大丈夫。ありがとう」


「そう? 無理しちゃだめよ。泣きたいときは泣きなさい」


「うん」


 それでもわかってくれる人はいる。


 葬儀を手伝ってくれた2つ年上の従姉妹の綺羅羅だ。物心つく頃からよく一緒に遊んでいたためか、唯一感情表現の下手な亜久里の想いを理解してくれる人物だった。


 彼女がいるから亜久里は今ここにいるといっても過言ではない。


 葬儀が慎まく終わり、参列者がほとんどいなくなったころになったとき綺羅羅が突然会わせたい人がいると言い出した。



「会わせたい人?」


 こういうときになぜそんなことを言い出すのかと疑問でならない。


「もう来てる頃かしら」


 そういって彼女は周囲を見回す。


「あっ、いた!」


 亜久里が綺羅羅の視線の先を向くと、ちょうど焼香をあげている男が一人いた。小柄で茶色の髪をした男が目を閉じて亜久里の両親に手を合わせている。


 それを終えると亜久里の方へと振り返り近づいてくると一礼をする。


「来てくれてありがとう」


 だれだろうと思っている亜久里の隣で綺羅羅は親しげに話し掛ける。男は一瞬困惑した様子を見せたがすぐに「どうも」と軽く綺羅羅につぶやくと亜久里の方を振り向いた。


 視線がぶつかり、亜久里の心臓が飛び出すほどの鼓動が響いた。


 誰なのだろう?


「あんたが依頼人?」


「はい?」


 その言葉の意味がわからずに綺羅羅のほうをみた。


「そうよ。この人が今回の依頼人よ」


 綺羅羅はそういいながら、亜久里の両肩を掴んだ。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

CODE:CRISIS 野林緑里 @gswolf0718

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る