第二章 湯煙殺人未遂事件 2
(きゅ、急にどうしたのよ)
今は黒猫であるティフォがびっくりしたように俺を見る。
(早急に必要なんだ。衛生の施設が)
必死さをアピールするために、今度は念話で語りかける。
(そうなの? 衛生施設じゃなくて、更生施設が必要な感じだったけど)
熱意よりもそちらの方に自分の気持ちが強くでていたらしい。
(で、具体的に何を造るつもりなのよ)
(造るというか、まずは見つけたいんだ。温泉を)
それが俺の考えた策だった。
温泉によって、入浴し、そして、そのお湯を洗濯に使うという一石二鳥の案である。
何故、わざわざ温泉――水は豊富なのだからそれを沸かさないのかと言えば、その燃料が貴重だからである。
石炭や石油、天然ガスなどなるハズもなく、主な燃料は木材である。それと街の燃えるゴミがここでは燃やすことのできるゴミとして活用されている。
さて、現代の日本人は、中世欧州の街の外というとどんな風景を想像するだろうか。
まず、小麦畑が広がり、その先に深い森が広がっているみたいなものだろう、実際、俺も転生する前はそんな想像をしていた。
ただ大きく違うのが距離だ。
街からの生活圏内の木はすでに伐採されており、さらにその無くなった分を補うためその伐採する範囲を広げて……というのを歴史の中で繰り返してきた。
木材を手に入れるための森は、街からだいぶ後退してしまっている。
これがそこそこ大きいこの世界での都市の姿だ。
ステンベルク王国の山間の王都ジュレムは、都市と言えるほど人口が少ない分、街から森までの距離はそこまで遠くはないものの、そこから牛車や馬車で運ぶことになるから、木材の値段は輸送費の分、高くなり、気軽に湯浴みなどできない。
ステンベルク王国は、山がちの地形だからどこかに湧いているのではないかという安易な発想だが、探してみる価値はあるだろう。
(この国のことなら、ティフォの方が詳しいから何とかできないかなって)
(……別にそんなことないでしょ)
乗り気でない返事が伝わってくる。
(予算のこともあるだろうし、そういうことはキルケーに聞いて。あ、その時にちゃんともっともらしい理由を付けるのよ)
そう言ったまま、黒猫はベッドから動こうとしない。
ティフォの元気のなさが気になったが、今は彼女のアドバイスを実行しに部屋を出る。
俺のこの計画が成功したら、街の人々も喜んでくれるだろう。
そしたら、きっとティフォも元気を取り戻してくれるハズだ。
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