第一章 本当の自分の姿が見られてしまったの 3
蘭皇子を乗せた馬車が、山の稜線の向こうへと消えたのを見届けてから、俺は一息つく。
しかし、それだけで胸に残るモヤモヤを完全に吐き出しきれたわけではなかった。
思わず腕の中にいるティフォを――今の彼女の身体を見る。
毎日、ブラッシングを欠かしていない黒い毛並は艶々で、猫にしては良いもんを食っているその身体は丈夫でしなやか。
対して、今の俺の――七門景の身体は、美しい美少女(強調させるための重複)。
金糸のようなその髪はサラサラで、顔は国庫を傾けて整形したとしても作れないほど端正で、細いのに出るとこは出ている身体は、理想を越えた現実の体現である。
……やっぱ、ティフォは今すぐにでも、戻りたいんだろうな……。
たとえ、それが一時的なものだとしても。
そして、その願いはあの皇子にもらった置き土産で可能なのだ。
(……ティ――)
念話で呼びかけようとしたのを慌てて中断して、口を開く。
「――ティフォ……そ、その……蘭皇子から貰った霊薬のことなんだが――」
(――言ったでしょ。しばらくはケイにあたしの身体を貸してあげるって)
俺の言葉を遮るように念話で言うと、ぴょんと俺の腕の中から飛び降りる。
(あたし、ちょっと散歩に行ってくるから)
そして、そのまま尻尾を立てながら駆け出して、どっかに行ってしまう。
俺はその後ろ姿を茫然と見送る。
予想外のことに反応できなかったのだ。
ティフォの念話から伝わってきた感情。
それは『逃げたい』だった。
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