第一話「入学」 その5
結果、完全に希望の逆となった。
ウチは一年一組に通うこととなったが、カナメとかいう最悪のおまけつきだった。
ミキミキと一緒のクラスだったらまだいくらかマシだっただろうが、ミキミキは一年三組に分けられた。
どうやらカナメは知り合いと同じクラスになったらしく、「アナルが一緒のクラスかよ!最高~」とか言ってた。
いや、アナルはどのクラスにも付いてくるもんだろ…という最低なツッコミをしかけたが、何とか理性で踏みとどまった。えらい!
ちなみに、入学式前に見かけたあのラブコメ主人公みたいなやつは一年二組に行くことになったようだ(名前はまだ知らないが、その男の周りの女子たちが騒いでいたのでどのクラスかを知るに至ったわけだけど…。マジで同じクラスじゃなくてよかったと安堵している)。
まあ、決まってしまったものはもう仕方ない。前を向いてこれから一年間平和に過ごせることを祈るしかない。
一組の教室の前でミキミキと別れ、少しの緊張とともに教室の扉を開ける。
教室にはまだ全員来ているわけではなさそうだが、机の数を見る限り一クラス40人弱くらいだろうか。
カナメは教室に入るなり、一人の男子生徒(おそらくアナル)の方へ行って話し始めたので、ウチは一人指定された席に座り担任の到着を待つ。
今心配なのは、友達をちゃんと作れるか、勉強について行けるかとかそういうのではない。とにかくカナメと同じクラスでちゃんと平和に過ごせるか否かというところにある。
正直友達を作るのは割と得意な方なのだが、今までの経験上、カナメとつながりがあることを知られると若干引かれてしまうのだ。
「はぁ…」
色んな感情を込めたため息をついた後、現実から逃げるように持ってきた小説を読み始めた。
4ページほど読み進めたところで、教卓側の扉がガラガラと開けられる。
教室の空気がすぐに硬くなったので、おそらく先生が入室してきたのだろうと本を閉じ、目を黒板側に向ける。
「今日からお前たちの担任を務める坂本だ。担当科目は数学だ。以後よろしく」
手短に紹介を済ませた坂本先生の第一印象は、まさにその自己紹介の内容とマッチするほどカジュアルな男性って感じだった。
髭は綺麗にそられてはいないが、不潔感が出ない程度の長さであり、顔もなんだか眠そうな表情をしている。服装は完全にジャージで、足元は百均に売ってそうなスリッパ。
見た感じまだまだフレッシュさを残しているので、おそらく年齢は20代後半、アラサーあたりだろう。
「今俺の見た目で年齢をアラサーだと推測したやつら、よく老けて見えるといわれるが、俺は新卒だ。今年で23歳だ。文句あるか」
…ほんとすみません。
「俺は長い話が嫌いなんで手短に今日の予定を言っておく。これからまずクラス全員が軽い自己紹介。そのあと、明日以降のための連絡事項等をして今日は解散だ。11時半くらいには終わると思うぞ」
やっぱり自己紹介あるよねえ…。
やば、ちょっと緊張してきた。変な印象与えないように当たり障りのない自己紹介を心がけて、あとは恥ずかしいから嚙まないように…。
「んじゃ、もうさっそく自己紹介に取り掛かるか。特にいうことない奴は名前だけでも良いぞー。よし、まずは出席番号一番の…伍井からだな」
ふぁー、こういうのって一番最初の人めちゃくちゃ緊張するだろうな…。がんばれー伍井くん!
「みなさんこんにちは!僕は
…最初から個性強すぎだろ。
ウチの応援を返してほしい…というか、その元気を分けてほしい。
とにかく個性の強すぎる伍井くんだけど、やはり一番の目立つポイントはそのガタイだろう。
趣味は自分の限界を引き出すことって言ってたけど、多分それは筋トレとか自分を追い込む系のスポーツのことなんだろう。
伍井くんに着られている制服は信じられないくらいパツパツで今にも制服の悲鳴が聞こえてきそうだった。てか、これ絶対肉体美を見せるためにわざとサイズ小さめの制服着てるでしょ…。
まだまだツッコミたい部分はあるのだけど、その思考を遮るようにある男子生徒…いや、カナメが野次を飛ばす。
「そのガタイ、マジやべえよ!尊敬の意味も込めてガタイって呼ばせてもらってもいいっすか?」
「はっはっは!全く構わないよ!しかし、君もなかなかのマッスルがついているようにお見受けする…。筋肉を愛する者同士、一緒に高めあっていこうじゃないか!」
「ああ!よろしくな、ガタイ!」
ガシィッ
そんな擬音が入ってもおかしくないくらい熱い握手を交わす二人。
あのバカ、さっそく目立ちやがって…。本当に先が思いやられる。
「はい、伍井…もといガタイ、トップバッターありがとう。みんなも彼のことは親しみを込めてガタイと呼んでやってくれ。んじゃ、次は大塚」
始まる前はトップバッターの子を心配してたけど、こうなってくると次の人ほんとに可哀想だな…。
大塚…って言ってたっけ。がんばれ、大塚くん!
「みなさんはじめまして、
お前がアナルかあああああああああああああああ!!!!!
ていうか、なんだよエロ読書って!
AV鑑賞はまだわかるけど、普通の読書と差別化したいからってエロ読書とかいう謎の造語をさも一般的な単語のように使うな!
「はい、アナルありがとう。みんなも早く距離を縮めるために、アナルってあだ名で呼んであげるんだぞー」
なんで先生はアナル呼びを寛容に許可してんの!?
普通こんなド下ネタで呼ばれてたらいじめを疑っちゃうよ!
ていうかなんでアナルの両親は亜成って名前をつけちゃったんだ!アナルって呼ばれるだろうってことに普通気づくでしょ!
声に出さないまでも、連続でこんなにツッコむとやはり疲れる…!
そういえば、発言にばかり注意が行ってしまって外見を観察するのを忘れていた。
まあいいか、アナルだし。
もはや考えることをやめたウチは、しばらくボーっとしてしまった。
耳に流れてくる情報によるとアナルのあとの数人はごく普通で、ようやく安心できたこともボーっとしてしまった要因の一つだろう。
でもよかった。普通の人もちゃんといて。
自分以外のクラスメイト全員があんなクソ強個性だったら本当に不登校になりかねなかったので、とりあえずそこは安心だ。
って、出席番号順(名前順)に呼ばれてるってことは、そろそろあいつの番なんじゃ…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます