第一話「入学」 その4
開式の辞から始まり、国歌・校歌斉唱や祝辞などを経て入学式はつつがなく進行し、もうすぐ終わりを迎える頃合いだというところで、カナメが式の途中ずっと下を向いていたのが気になってしまった。
こいつのやっていることなど、気になってしまった方が負けなのだが、もし体調が悪かったりしてはいけないので、仕方なく小声で声をかける。
「ねえ、大丈夫?式の始めからずっと床見てるけど」
「ん、ああ。…ちょいキツイかも」
「え!?」
ちょっと、なんで辛いのに我慢して出席しようとしてんのよ、こいつは。
「キツイならなんでもっと早く伝えてくれないの?普段の行いが悪いせいで、心配する気も起きなくてこっちは気づかなかったんだから」
「…すまん。さすがに無機物には興奮できそうにないみたいだわ」
「は?」
何を言ってるんだこいつは。全く会話が成り立ってないような気がするんだが。
百手先でも読んで会話してんのか?という謎のツッコミが浮かんだところで、カナメはずっと床を見ていた理由を話し始めた。
「世の中にはさ、無機物を見て性的興奮を覚える人がいるらしいじゃん?対物性愛っていうの?エッフェル塔と結婚した女性もいたみたいで、どうしてそんなことが起こるのか疑問に思ってさ。んで、自分もその人たちの気持ちを理解するためにも、今こうやって床を見て恋愛対象になるかなあ、とかやってたんだけど、やっぱり俺にはキツイみたいだわ」
「…OK」
もはや見当違いの返答しか浮かんでこなかった。
全く、ウチじゃついていけない思考回路だわ…。
「カナメさんは素敵な感性をお持ちなんですね!」
「!?」
まさかの理解者が自分の隣に!?
「お?聖女さん、もしかして俺と馬が合ったりする?」
「世の中にはいろんな人たちがいますが、そうやって相手の立場に立って人を理解しようとすることはとてもすてきだと思いますよ!」
「まさに聖女だね、あなたは…。付き合ってあげてもいいよ?」
「何の自信があって上から交際を申し込もうとしてるんだ」
明らかに勝算ないのにガンガンいこうぜすぎでしょ。
「…以上を持ちまして、無敵高等学校入学式を閉会します」
式中にしていいとは思えない会話が終わりを迎えたと同時に、どうやら入学式も終わりを迎えたようだ。
新入生はこのあと退場し、体育館前のクラス分けの張り紙を見て各々の教室に向かう予定だ。
おねがい、カナメとは違うクラスであって…!そしてミキミキとは同じクラスでお願いします…!
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