動きだす I
太陽が空を明るく照らしていないまだ闇が残る頃、廊下が騒がしくて目が醒めてしまった。
(何かあったのかな……え、もしかして!?)
エレーヌは思い当たる節があり寝台から飛び降りる。
支度なんて今は関係ない。身だしなみなど、そんなものは考えている暇はないだろう。ノータナーは見当たらないけど、急いでエレーヌはエディ兄様の部屋へと向かった。
「そんなことはない。まだ、暴走を起こすのは早いはず。 それにまだ──! 」
エディ兄様の部屋は私の階よりひとつ上にある。階段をぜいぜいと駆け上がる。空気がだんだん仄暗く重くなっていることに肌がひりひりと感じ取っている。
──これはきっと……!!
もう少しで兄様の寝室にたどり着くころ、誰かが私の腕を急に掴んだ。
この手には覚えがある。私を止めようと必死になるものの、強く握らないようにしてくれる。少しカサついた手。私が贈り物をしようとしている彼──
「……ノータナー?! 」
「エレーヌ殿下……!! 近づいてはなりません !! 」
「どうして?! エディ兄様が危ない状況で、私が何もできないなんて嫌よ 」
私の今の知識なら、もしかしたらエディ兄様の暴走を止められるかもしれない。西の塔のあの人からヒントをもらうことはついにでにないままこの日が来てしまったけれど。記憶の箱を開けた今の私なら兄様のことを──!!
そんな出来すぎた子どもの発想は、突然の爆発で打ち消されることになる。
威力は事前にここらに張られた結界で打ち消されているものの、発生地点はエディ兄様の部屋だろう。パラパラと落ちてくる破片からノータナーは私を守るように覆いかぶさりながら、力を使い、結界のようなものを私の周りに張った。
──私が考えているよりも状況が悪い。
私の顔色をみて怖がっていると思ったノータナーがすぐさまここから私を離そうと行動に移した。
「エレーヌ殿下、ここは危険ですので離れましょう。 無礼をお許しください 」
と、彼の両手で優しくそっと抱き抱えられた。
「ノータナー。まって、エディ兄様は? 」
ノータナーの顔を見遣るが、任務中特有のポーカーフェイスな彼の表情からはなにもそこから読み取ることはできなかった。
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