記憶の箱




「っつ……!? 」


 本当はわかっていた。これは夢の世界ではない。でも現実だと認めたくなかった。




ーー御伽噺のままならなんてよかったことだろう!!



 知識として存在していることが甦ってくる。一度開いた記憶の箱は、もう閉じることはできない。あとは全て思い出すだけだった。



 もう息も絶え絶えで、ぜいぜいと口から僅かに吸える空気を肺にとりこむ。頭が痛い。血液中の酸素が足りなくて爪先から痺れがはしる。立っていられなくなり座り込む。



 床の大理石を眺めている暇もなく顔を両手でオルフェさんに持ち上げられる。無理やり頭を上げさせられた。幸い軌道が確保されて空気が肺に入ってきた。嫌でも目を見つめるように固定されて下を向きたくても向けない。



 頭が重く、自分の意志とは関係なしに思考は動かなくなっているのに、直接映像が、言葉が、流れてくる。私が認識するのを拒否するのがわかっているのかのようで、やめてくれない。止まらない。








 この世界には ≪神の力≫ を持って生まれてくる者がいる。 ≪神の力≫ は神からの恩恵である。その力は神に由来し、人智を超越した力である事から、時には災いをもたらし世界を破滅させるほどの脅威にもなる。




 ≪神の力≫ を持つ者たちは皆プシュケーが神の理に囚われている。そして、彼らの運命は神の逸話によって予め定められている。このことを研究者は ≪エピソード≫ と名付けた。




 プシュケーはエピソードをなぞるように身体を行動させる。エピソードが崩れてしまい、達成しない場合には ≪呪い≫ となり暴走して世界を破滅させてしまう。 ≪呪い≫ が生じたら最後、何かを犠牲にしなければならなかった。



 これらの神の理を克服してはじめて真の力を手にできるとされている。






 ミィアス国では代々王が ≪神の子≫ となり神の代理として力を持つ者達を管理していた。



 王と力を持つ者達の契約のために、神から授けられた聖遺物が三つ存在するとされている。これらは歴代の王の継承式で引き継がれ、全て揃っているからこそ、平和を維持できているのだった。




 しかし、絶対的な力を持つ王にも弱点があった。それは、次世代の ≪神の子≫ が誕生すると弱体化すること。そして穢れに弱く、 力の由来である神の ≪エピソードの記憶≫ が発現すると死に至る可能性があること。




 

 ある日、次世代の ≪神の子≫ が生まれた。それは同時にこの世界の安寧に綻びが生じた瞬間でもあった。その子は、エピソードが欠けていたのだ。危機感を抱いた王らはある計画を実行する。




ーー小さな糸のほつれは、やがて大きな穴となり ≪呪い≫ が生じたこの世界は破滅への道を歩むことなる









 目の前のオルフェさんが急に目を閉じさてきた。私の頭の中で流れる今までの現状。原作では描かれていることのない情報が、急に私のメモリー記憶としていままで残っていたかのようだ。どうしてーー?




「 オルフェさん貴方は何者なの? どうしてこの世界に詳しいの? どうして私にこんな記憶を与えたの? 私にとって貴方は夢の番人だと思っていたのに…… 」



「ああすみません…….いっきに多くの記憶を思い起こさせてしまいましたね。今はこのキミの力を取り戻すために必要な知識なのです ーーもう少し辛いことをします 」




 「ごめんなさい」とオルフェさんは呟いてパニックになっている私に魔法をかけたようだ。ふわふわと身体に力が入らなくなってくる。寝てしまいそう。いまそんなことは嫌なのに


 目を閉じる瞬間悲しそうな青年が私を見ていた。




「エレーヌ、私はねキミを救うためならなんでもするよ。キミにとっても辛いことでもね…… 」




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