一、『斬壺』――主題歌『アイデンティティ』(サカナクション)
https://kakuyomu.jp/my/works/16816700429059636654
「アイデンティティが無い!」なんて歌詞がいきなり来る曲が、剣客時代もの短編の主題歌って。
「はっはーん、バカだなお前?」と問われたら「あっはい」と首を縮こめるしかないわけですが。
実は音楽を元に小説を書いたことって、記憶にある限りは無いのですが。この小説に関しては、書いている時期にちょうどこの曲を聴いて「ああこれだ、同じだ」と思って書いた記憶があります。
――剣に一生を捧げた初老の武士、彼が出くわし敗れたのは年端もいかぬ賊。何の修めた技もなく、それでも自分の上をゆく。そんな、存在すら認めたくもない存在。
奴を斬る、それが可能なのだとしたら。その方法はただ一つ、『斬壺』。
彼の流派に伝わる奥義、全てを自在に斬るという技。だが主人公が、初老の武士がそれに成功したのは若き日のただ二度。以来、一切成功していないその奥義――。
アイデンティティが無い! 失われた、この齢まで必死に培ったアイデンティティが!
――そこから始まるこの物語、如何な結末を迎えるのか。読まれていない方がおられれば(そんな方がわざわざこの文を読むのかはともかく)ぜひお読みいただきたいものでございます。
まあそんな(作品より先にこっちを読むような)酔狂な方はいらっしゃらないと決めつけてぶっちゃければ。
主人公はアイデンティティを取り戻すために戦ったわけですが。最終的に、アイデンティティ――『我』――など捨てて全てを尽くしたゆえに、あの終幕に至った。そう考えています。
近年、筆者は仏教哲学に傾倒しているのですが――一応言っておくと思想を信奉しているのであって、信仰心があるわけではなく特に宗教団体に所属しているわけでもない――仏教の根本的な思想の一つに諸法無我というのがあるわけで。
この世のどこにも『我』は無く、一方でこの世の全てが『我』である――
本作を書いた頃にはそんな小難しーことには、ひとっ欠片も興味の無かったわけで。
それでも多分、今、本作を書いたとしても。きっと同じ結論に至る。
そう考えるとどうも。自分史としても、興味深い一作ではあります。
それはそれとして、本作と主題歌の関係としては。映画館で本作の上映が終わった後、画面が暗転してスタッフロール、そして主題歌――って情景を妄想しています。
ま、それをもしも他人の口から聞いたら。間違いなくこう言ってやりますよ。
「はっはーん、バカだなお前?」
……あっ、はい。
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