海よりも深い理由

 ぼうっと景色を眺めていると、どこからともなくガラの悪い三人組が現れた。


「クソ、あの巨乳女……絶対許せねえ」

「ちょっと顔が可愛いからってよ!!」

「あんな役立たずのゴミ生徒会長を庇って、なんの得があんだよ! 俺たちと遊ぶ方が有益だろうが!」


 言いたい放題だな。

 って、俺と春風さんのことじゃないか。


 しかも、あの不良グループは俺に絡んできたヤツ等で間違いなかった。今時、リーゼントでボンタンとか、アイツ等くらいしかいない。


 ヤツ等は、こちらに気づいてギョッとしていた。


「……これは面倒な予感が」


 頭を押さえていると、不良共がこちらに向かってきた。



「て、てめぇ……そこの女! あと生徒会長! さっきはよくもやりやがったなァ!?」


 ガン飛ばしてくるリーダーの男。

 だが、それよりも春風さんの方が圧倒的に怖かった。あの殺し屋のような眼光。俺ですらチビってしまうよ。



「アァ!?」

「……ひッ」



 春風さんに睨まれ、怯む不良共。

 止めておけばいいのに。


 さすがに春風さんには敵わないと思ったのか、今度は俺の方へ絡んできた。


「マジかよ」

「生徒会長、せめてテメェをボコさねぇと俺様たちの気が済まねえ! 一発ぶん殴らせろやァ」


 俺の肩を強く握る不良リーダー。


「い、痛いって」

「死ねや、このヒョロガリ野郎が――ぁあぁッ!?」


 その瞬間、男のただでさえ醜い顔面が激しく歪んでいた。

 物凄い衝撃と共に男はゴロゴロ転がっていく。


「彼に手を出すな」


 春風さんのストレートパンチが炸裂したんだ。

 まったく見えなかったけどな。


 元プロボクサーのマイク・タイソンみたいな威力と速度だったぞ。

 やっぱり只者ではない。

 春風さんの格闘経験を一度でいいから聞いてみたい。


 やがて不良グループは、ボロ雑巾と化したリーダーを抱えて逃げていった。



「ありがとう、また守って貰っちゃった」

「この世は弱肉強食。強者は生き続け、弱者は無慈悲に死んでいく。それが摂理よ」


「だから、春風さんは強いのか」

「うん。自分を助けられるのは自分だけ」


「でも、俺を守ってくれたじゃないか」

「そ、それは……海よりも深い理由が」



 珍しく照れ臭そうに視線を外す春風さん。……ん? どうして頬を赤くしているんだか。


 よく分からないけど、俺には優しくしてくれる。どんな理由であれ、俺はそれがとても嬉しかった。



「そろそろ帰る?」

「……うん。自宅まで送る。家を教えて」

「マジ? 送ってくれるの?」



 俺は春風さんの目に合わせようとするが、彼女は照れて(?)視線を外す。


 むむ?


 あんまり、しつこいと嫌われそうだ。ここまでにしておこう。



「か、帰るよ」

「分かったよ、春風さん」



 再び駐輪場へ戻り、同じように俺は後部座席へ。

 これ、慣れないなぁ……。


 とにかく俺は住所を告げた。



「そこだったの。割と近所だったなんてね」

「へえ。それは意外だな。まさか春風さんも腰越こしごえだったなんて」


「ずっと地元。もしかしたら、昔会ったことあったかもね」

「春風さんみたいな可愛い子がいたら覚えていると思うけどなぁ」


「……ッ!」



 それ以降、春風さんは黙ってしまった。

 俺、余計なこと言ったかな。


 バイクはどんどん加速していく。


 気持ちの良い風を切って、力強く前進を続ける。


 気づけば、俺の家の前にいた。



「今日はありがとう。春風さん」

「礼はいいよ。その代わり、また拉致るから」

「了解。また明日」


「うん。その……生徒会長」

「ん?」


「ううん。なんでもない。また明日」



 凛した表情でバイクのエンジンを掛ける春風さん。どこか嬉しそうにも見えた。

 少しして春風さんは行ってしまった。


 少しだけ見送ると、複数のバイクが合流しているように見えた。


 ……なんだろう?

 今時、珍走団とか暴走族なんているのか。

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