第6話
「──これで、終わり……かな?」
大魔法を発動した達成感そのままに手で額の汗をぬぐいながら周りを見回すカイルは、自分が倒した魔物を数えるように周囲を見回す。
「うん、全部倒せたみたいだね。防御壁解除っと」
魔物たちを全て倒した確信を持ったカイルは、馬車の周囲を守っていた光の魔法を解除していく。
自分たちが苦戦を強いられていた魔物たちを瞬殺してしまったカイルを目の当たりにし、騎士たちはあまりにも驚きすぎて呆然としている。
「よかった、みんな無事みたいですね。おっと、魔物の死体をこのままにしておくのはまずいか。影収納」
思い出したようにカイルは闇魔法で収納空間を作成してそこにポイポイと投げ捨てるように魔物の死体をしまっていく。
あっという間に魔物の死体はなくなり、魔法の痕跡や血のあともカイルの水魔法や風魔法で一瞬のうちに綺麗さっぱりなかったことになっていた。
「それじゃ、僕はもう行きますね。この先に魔物はいないみたいですけど、気をつけて!」
呆然としている騎士たちを尻目にカイルはそう言い残すと、ひらひらと手を振って颯爽と走り去っていってしまう。
「──あ、君! 待ちなさ……! ……行ってしまったか」
何者なのか? なぜあんなことができたのか? あの魔法はなんなのか? 騎士隊の隊長は聞きたいことがあまりにも多かった。
なにより命の恩人である彼に礼を言いたかったが、止める間もなくカイルの姿は見えなくなってしまった。
「あの方は……」
その背中を馬車にいたお嬢様はいつしか騒がしい声がなくなったことに戸惑いながらもそっと窓から顔をのぞかせた。
一瞬だけしかカイルの顔を確認できなかったが、彼女の命の恩人の顔はしっかりと脳裏に焼きついていた──。
カイルが両親のもとへ走って戻る途中、迎えにきていたマックスの馬にのせてもらったカイルは、怒りと心配の表情をにじませた両親と硬い表情のエルの前にいる。
「──みんなお待たせ……って、あれ? ……怒ってる?」
急いで戻ってきたカイルは、両親とエルの表情が険しいものになっているため、戸惑いからそんな質問が口から出ていた。
今まで両親たちから怒られた経験などほとんどないカイルは彼らの表情がどうしてかあまりわかっていなかった。
「あたりまえだっ! 子どもが一人で危険な場所に行くだなんて!」
「どれだけ心配したと思っているの!!」
無事に戻ってきてくれた怪我一つないカイルの姿にホッとしつつも、心配のあまり両親は口々に注意していく。
二人もすぐに追いかけたかったが、それをしてしまうと自分たちも魔物に狙われて余計な足かせになってしまうとわかっていた。
だから、マックスに護衛のため追いかけてもらっていた。
大切な一人息子を死地に送り出してしまったことは彼らにとって心が引き裂かれるほど辛いことだった。
言葉ではカイルのことをしかりつけているが、それは彼らの心からの愛情そのものだとわかる。
デミオは心配しているのがありありとわかる表情で、クレアは今にも泣きそうな顔で声を荒らげている。
「そうです、危険にあわせないために私とマックスがいるんですよ!」
もうこんなことはしないでくれという表情のエルはカイルに馬から落とされたことも、馬を奪われたことも気にしていない。
そんなことよりも、魔物がいるとわかっている場所に一人で向かったことに怒っていた。
「っ……ご、ごめんなさい……!」
カイルは自分ならば何の問題もないと思って行動した結果だったが、そもそもこれまで自身の能力を自分以外のすべての人に対して隠していた。
そのことを考えると、ただ子どもが魔物のもとに策もなく行っただけと見えても仕方のないことである。
しかも家族たちは自分のことを心から心配していたのが伝わってきて、申し訳なさから彼は自然と謝罪を口にしていた。
素直に謝るカイルに微笑んだクレアはしっかりと彼を抱きしめ、怪我がないことに心から安堵している。
「あ、あの……」
その状況にあって、マックスは発言の許可を得ようと手をあげた。
「マックス、どうかしたのか?」
「──カイル様がお一人で行ったのは正しいと思います」
まさかの発言に、彼とカイルを除く全員がなぜそんなことを言うのか理解できず、首を傾げてしまう。
それでも、真剣な表情をしたマックスは言葉を続ける。
「……この先には、一台の馬車があって、たくさんの魔物に襲われていました。ゴブリン、ゴブリンメイジ、フォレストウルフ、オーク、オーガがそれぞれ複数」
想定以上の数の魔物に、デミオたちは絶句し、カイルを抱きしめていたクレアの力が強くなる。
「とても手に負えぬ数の魔物の群れを、カイル様は風・水・雷の魔法を使用して瞬く間に倒してしまったのです……!」
この中で唯一カイルの戦いぶりを見たマックスが、いまだに信じられないといった表情のまま、なにがあったのかを簡単に説明する。
それはおよそ信じられるものではなく、ぎょっとしたような全員の視線がカイルに集まった。
「風に……雷? そんなバカな……。カイルの鑑定結果は《黒》のはずでは……!」
「あー、まあそうだね。こんな感じ、かな……」
困ったように笑うカイルは呆然としているクレアの抱擁からゆっくりと抜け出ると、手のひらに小さな風の玉を作り出す。
それを消すと今度は水の玉、それを消してパチパチと跳ねる小さな雷を作る。
「──と、まあこんなところかな」
黒い闇属性と鑑定された、わずか五歳の子どもがそれだけのことを成したのは、驚くべきことである。
この世界では二つ属性を持っていればそれだけでも十分に希少だと言われている。
そんな状況にあって、それを越える数の属性を自在に使えるカイルの存在は異質だった。
「……と、とりあえず、家に帰ろう。こんな場所では誰が話を聞いているかわからないからな」
デミオたちはあまりの状況に困惑しつつも、出かけることをやめて引き返し、全員揃って家に帰ることにした。
「うん、家に帰ったら全部説明するよ。僕の魔力と黒い水晶玉の秘密について──」
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【あとがき】
原作の漫画は隔週『火曜日』に【異世界ヤンジャン様】にて更新されます。
詳細は下記近況ノートで!
https://kakuyomu.jp/users/katanakaji/news/16817330650935748777
※注意
こちらの内容は小説限定部分も含まれております。
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