第7話


 家に到着すると、カイルはメイドに様々な色の絵の具を用意させ、両親とともに敷地内にある訓練所に移動していた。


「さて、それじゃあ二人には僕の魔法について説明するね。あと、生まれたばかりの時にやった鑑定の水晶玉が黒く表示された理由も一緒に説明するよ」

 緊張の面持ちをした両親を前に、カイルは魔法と水晶玉の説明を同時にしようと語る。

 彼らが頷くと同時にカイルはにっこりと笑った。


「まずは、この水の玉を水晶だと思って……」

 カイルはそう言いながら最初に水魔法を使って空中に水晶玉くらいの水の玉を作って見せる。


「ここに、水属性の青を入れていくよ」

 メイドが持っているトレイから青の絵の具が入った容器を持ち、ふたを開けて一滴垂らすと、青の絵の具が水の玉に入っていき、全体が青に染まる。


「ふむ、綺麗に青が広がったな」

 青く染まった水の玉をしげしげと眺める両親はカイルの説明に聞き入っていた。


「というわけで、ほかの魔法は一気に行くね。僕が使える魔法の色である──火の赤、土の茶、風の緑、氷の水色、雷の紫をっと……」

「お、おい、待つんだ……カイル!」

 デミオが焦ったように手を伸ばすが、カイルは両手に持った絵の具を次々と水の玉に入れていく。

 最初の青に五色が加わって、最初はマーブルを見せていた色も、全て混ざるとなんとも言えない色へと変化していく。


「確かマックスの報告では「風・水・雷」の三属性だったと言っていなかったか……?」

「そうですよ、カイルさんはそれ以上の魔法は使えないでしょう……?」

何とも言えないまだらな色合いをした水の玉を前に、両親は戸惑いの声を上げる。


「──使えるよ?」

 デミオとクレアの質問に答えるように、カイルは一瞬で各属性の魔法を指先に出現させる。

 右の親指に火を灯し、人差し指の先に小さな四角い石が浮かび、中指からは風の玉が、薬指に氷の塊が創り出され、小指の先では雷がパチパチとはじけている。


「ご、五属性魔法っ……!?」

「そして、最後に光と闇──」

 先ほどの五属性の魔法を消して、左手に光の玉、右手に闇のモヤを作り出した。


「これらの色である白と黒をいれるね」

 ぽちゃんと白と黒の絵の具が水の玉に落ち、八色の絵の具が水の中で混ざり合って行くと水晶は真っ黒に染まりあがった。


「全属性の色を混ぜることで無色の玉が漆黒になるのか……!」

「そうだよ、父さん、母さん」

 カイルの魔法と水晶玉の真実──それが同時に展開されているため、二人は混乱しながらただ驚愕していた。


「ということで、多分水晶玉に八色が全て同時に混ざって表示されたことで真っ黒になったんじゃないかと思うんだ」

「お、おぉ……」

「なんてこと……」

 カイルの生家では魔族の色だと嫌煙された黒が実はいろんな属性が使えるがゆえにいろんな色が混ざり合っただけの漆黒であった。

 それがカイルがずっと調べてたどり着いた水晶玉の真実だった。


 しかし、デミオは一つ気になることがでてきたため、その言葉を口にしていく。


「カイルが魔法を使えるのも、全属性が使えるのもわかった。水晶玉のことも理解はした。だが、どうやって魔法を練習したんだ?」

 デミオもクレアもそして家の者も、誰もカイルに魔法を指導したことはない。

 魔法はある程度の知識があるものが正しく指導しないと魔力暴走を起こす恐れがあるため、家庭教師をつける貴族の家でもない限り、素人が指導することはないからだ。


「あぁ、それなら父さんの部屋にいい本があったから借りて読んで練習したんだよ」

 優しく笑ったカイルは影の収納から本を取り出した。


「私の……? それは、レイザックの本じゃないか?」

 カイルが取り出した本を見てデミオが思い出したのが、書斎においてあった魔法書で、その著者の名はレイザックだった。


「ん、そうだけど……一目見ただけでよくわかったね!」

 書斎の奥の方に置いてあった本であったため、まさか、ぱっと見ただけでわかるとは思っていなかったため、カイルは意外そうな表情をしている。


「あぁ、レイザックとは旧知の仲でね」

「懐かしいわね」

「──ええっ!? 著者と知り合いなの!? それはすごい! この本って初心者にわかりやすくて、中級者の道を示して、上級者には更なる広がりを教えてくれるすごい本なんだよ! その本を書いた人が知り合いだなんてすごすぎる!!」

 旧友を懐かしむ二人に、カイルは興奮した面持ちで本への熱い思いを語りながら迫る。


「ハハッ、絶賛じゃないか、本人も聞かせてやりたいもんだ」

 デミオは息子があまりにも褒めるため、友であるレイザックにカイルの思いを伝えたら喜ぶだろうと思った。


 そんなやりとりをしていると、メイドの一人が訓練所までやってきた。


「お取込み中、申し訳ございません。旦那様にお客様がいらっしゃっています。いかがいたしましょうか?」

 メイドはカイルたちが取り込み中という話は聞いていたため、どうしたものかとデミオにお伺いをたてにきていた。


「──ん? 約束はなかったと思ったが……ちなみに、来客の名前はわかるか?」

「はい、それは……」

 メイドが名前を言おうとしたところで、彼女の後ろからその人物が姿を現した。


「せっかく旧友が遠くから訪ねてきたというのに、どうしたものかと迷惑そうに悩むなど、失礼極まりないぞ……?」

 彼女はメイドよりも背が高く、大きい魔法使いらしい帽子をかぶり、美しい髪をなびかせていた。

 妖艶な雰囲気を纏う美女という言葉があてはまる、スタイリッシュな魔法使いの女性だった。


「あ、あぁ……!」

 ここで初対面のカイルは驚きと感動のあまり変な声がでてしまっている。もちろん美女が現れたからではない。


(エ、エルフだあああああああ!)

 キラリとイヤリングが輝く尖った耳が示すとおり、彼女の種族はエルフだった。


 この世界には人族以外にも多くの種族が生活している。

 しかし、エルフは長命だが種としての数が少なく、大森林に引きこもって生活しており、めったに会うことはないと言われている。


 その幻の種族が目の前にいることにカイルは目をキラキラと輝かせて感動していた。


「おぉ、ミルナじゃないか! よく大森林からここまできたものだな! いやあ、久しぶりだね!」

「ミルナさん、お久しぶりです!」

 デミオとクレアは知った中であるらしく、親しそうに話しかけている。


「相変わらず夫婦仲はよさそうだな。安心したぞ……ん? ところでそっちの少年は?」

 ミルナは二人には子どもができないという話を聞いたことがあったため、首を傾げながらカイルのことを見ている。


「あぁ、ミルナは初めてだったな。息子のカイルだ」

 嬉しそうに笑ったデミオは迷いなくカイルは自分の息子だと紹介する。


「そうそう、すごい子なんですよ!」

 気づいてもらえてうれしいと言わんばかりに、クレアはカイルを軽く抱き寄せて頭を撫でながら自慢げに言った。


「二人の息子か……なるほど。カイル君だったね、私の名前はミルナ=レイザックだ。お父さんとお母さんとは昔の友達でね……ってどうしたんだ?」

 カイルが目を見開いて震えているのを見て、ミルナは心配になって顔色を窺っている。


「──レ、レイザックさんって、こ、この本の……?」

 あこがれの人かもしれないという感激のあまり震えるカイルはそっと彼女の目の前に本を出してミルナに尋ねる。


「あぁ……そういえば昔そんな本を書いたことがあったな」

 過去に書いた本を大事そうに取り出されたため、当の本人は困惑していた。


「っ!! すごいです! この本は初心者が手にとって練習するにはすごくためになる本なんです。魔法の仕組み、魔力の流れなんかがわかりやすく説明してあって、更にそこからステップアップした場合どんな壁にぶつかるかなんていうことも書かれていて、それだけじゃなくてある程度魔法が上達してきた人たちは魔法に頭打ち感を感じるけど、その先に広がる魔法の世界があって、それが丁寧に説明してあって……!!」

 ミルナがあこがれの人だと確定した感激が極まったカイルが早口でまくし立てるため、帽子を触ったミルナは照れ臭そうにふっと笑った。


 デミオとクレアはそんな息子のことを暖かく見守っている。


「──はっ! ご、ごめんなさい。つい作者さんが目の前にいると思ったら興奮してしまって……!」

 まくし立てていたことに気づいたカイルは頬を赤くして、謝罪をする。

 この世界で魔法に大ハマりしたからこそ、バイブルとして何度も何度も読んでいる本のことになると熱くなってしまうのだ。


「いや、それは構わない。少し驚いたが、ためになったのなら書いたかいがあるよ。カイル君、魔法は好きかい?」

「は、はい! 大好きです!!」

 ミルナの質問に、声を上ずらせながらカイルは即答する。

 カイルは本をギュッと握りながら目をキラキラと輝かせており、魔法が好きだということを誇らしく思っているのが伝わってくるほど力強く答えた。



―――――――――――――――――――――――


【あとがき】

原作の漫画は隔週『火曜日』に【異世界ヤンジャン様】にて更新されます。


詳細は下記近況ノートで!

https://kakuyomu.jp/users/katanakaji/news/16817330650935748777


※注意

こちらの内容は小説限定部分も含まれております。

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