スィンネス・ソード

 季節の行事の為にすすきを集める。この時期の風物詩だ。野原にそこかしこと生える芒から、形の良いものを選んで自然からもらっていく。野原も広いので、蒼万あおよろず総出で作業をしている。付き合いのある者におすそ分けするため、かなり多めに用意せねばならないのだ。

 れ葉混じりの背の高い草叢くさむら隙間すきまから、時折使い魔たちの黒や淡い青の髪が見える。


「いてっっ!」


 唐突に、レインの声がする。転んで足でも怪我けがしたのだろう。とりあえずレインのところまで草をき分けて進む。

 程なくしてレインのところに到着する。彼は指先の方を見ており、どうやら指を切ったのだと予想がついた。指先から、血の雫がにじんでいる。


 薄くて弱そうなものに指をられる――転じて、スィンネス・ソード。

 この世界では、紙や葉っぱなどの薄いもので指を怪我することをそう呼ぶ。


「‟薄いものに斬られた”んだな。芒は葉がするどく硬いからな。ほんとに剣みたいだから気を付けなよな」


 とりあえず軽く治療しなければ。俺は魔法使いなのだが、治療系の魔法にはうといから大体サフィーに丸投げする。


「おーい、サフィー!」

「どうしたの? ご主人」


 草叢の中から、サフィーが顔をのぞかせる。


「レインの切り傷を治してやってくれ」

「はいはい。いつものやつね」


 またか、といった表情をする。レインがよく怪我をするので、こういうやり取りは慣れっこなのだ。


「サブちゃん、手袋しないとダメよ。ちょっと指見せてね」

「だってぇ、手袋したらうまくものをにげれないじゃん」

「そういう時は呪文を使って芒を切ればいいじゃないか」

「たしかに! ヌシ、ありがとっ!」

「ほら、動かない動かない。」


 サフィーが傷の程度を確認する。


「この程度なら、軽いのでいいわね……パルンダ」


 そう言って呪文と唱えると、レインの傷がえてゆく。


「はい、これで大丈夫。また切っちゃわないように手袋はしてよね」

「はーい!」

「これでいいわね?」


 サフィーはこちらを一瞥いちべつして、確認を投げかける。


「ああ、ありがとう。サフィー」


 レインが手袋をはめるのを見届けて、サフィーは草叢に消える。レインも、サフィーとは違う方向の草叢に入っていって姿が見えなくなる。


 俺たち3人は再び散らばって、芒を集め始める。3人の頭を、それを囲む枯草まじりの草原を、秋の空気を含み始めた風が優しくでていった。

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