第9話

 ちょっとだけ僕の想定よりも間宮さんがお馬鹿さんだった結果、太陽が沈んだ時間帯に帰ることになった僕は震える体を抑えながら家へと帰ってくる。


「ただいま」


「おかえり!お兄ちゃん!}


 ちょうど玄関に居たのか。

 僕が家へと入ったすぐのタイミングで桜が僕に抱きついてくる。


「あぁ……うん。ただいま」


「……すんすん……これはあのアバズレの……すんすん……これは?」

 

「そんなに匂い嗅がないで?」


 己の顔を僕の胸へと埋め、熱心に匂いをかぎながら何かをぶつぶつと言葉を漏らし続ける。


「なんで帰ってくるのが遅くなったの……?こんなにメスの匂いを漂わせて一体なにべぶしッ!?」

 

 びっくりするくらいに無表情の桜が僕を見つめ、圧力を加えながら尋ねてくる桜の頭にチョップを入れる。

 

「メスの匂いって何を言っているの?そんな意味のわからないことを言っている暇があったらさっさと退いて……あと、女の人をメスって言っちゃ駄目だって話したよね?普通に口悪いからやめようね。それ」

 

 僕はそう言ってから桜を退かして廊下の方へと足を進める。


「んげぇ!?」

 

 そんな僕を桜は一切の躊躇なく押し倒した。


「……え?何?」

 

 僕は困惑しながら、押し倒された僕の上に乗っている


「用事なわけないよね?こんなに遅くなるなんてことないじゃん。普通はさ。それにもう一度言うけどこんなメスの匂いを漂わせて何をしていたの?」


「さっきも言ったけど先生に言われた仕事だよ。どう考えても仕事量ミスっている図書委員の仕事。その、メスの匂いってのは一緒に作業した

 

 なんとなくの勘が僕に『間宮さんに勉強を教えていたんだ!』と言ってはいけないと告げていたので、話すの内容を少しだけ減らして桜の言葉に答える。


「……」


「……」

 

 僕と桜は見つめ合う……僕は立ち上がるため、桜を退かそうと彼女に手をやる。

 力を込める。

 桜はビクリとも動かな……え?ま、待って?ふんッ!ふんッ!ふんッ!!!……動かないッ!?年下の女の子に力負けしている……ッ!?

 そんな馬鹿な!?……ひ、引きこもってばかりいないで少しは運動しようかな、僕。


「……氷の女王。まぁ、良いかな。うん……そっか!お疲れ様!お兄ちゃん!」 

 

 桜は僕の上から退き、笑顔を浮かべる。


「夜ご飯出来ているよ?食べるよね?」


「うん。食べるよ。部屋で着替えてくるから待ってて」


「待っているよ」

 

「ふんふんふーん」

 

 僕は自分を押し倒してきた桜のことをいつものことだと頭の隅へと追いやり、気分良く部屋の方へと足を進めた。

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