第8話

「本当に熟睡している」


 真昼間の図書室で気持ちよさそうに眠っている少年を見て私、間宮愛莉は呆然と声をもらす。


「すぅ……すぅ……すぅ……」

 

 頭の悪い私は親の財力に物を言わせて多くの家庭教師を雇い、その人のお世話になってきた。

 授業中に気持ちよく寝だすなんて初めてだ。


「……」


「すぅ……すぅ……すぅ……」

 

 平均的な男の子の中では小柄で、童顔な少年は端から見ていると高校生に見えない。

 小さな唇から息が漏れ、息を吸う。

 小さな体がふくらみ、縮み……ふくらみ、縮みを繰り返す。


「ふふふ……かわいい」

 

 苦労など何も知らないのではないかと思うほどに安らかでかわいい寝顔を晒してる碧衣くんを見て私はボソリと言葉を漏らす。


「ってこんなことをしている場合じゃないわ」


 私の学力は崖っぷち。

 親の財力の力でなんとか高校を留年せずに進級出来たと言っても過言じゃないようなのが私なのだ。

 私は限界ギリギリのところに立っている。

 碧衣くんの寝顔を見ている場合ではない。


「よし。私も頑張るとしましょうか。せっかく彼が作ってくれたのだから真剣にやらないのは失礼よね」

 

 私はカバンから筆箱を取り出し、シャーペンを使って問題を解き始めた。




「え?私、小学生の段階で躓くの?」




「え?これで中学生……?全然わからないのだけど」




「これが、高校一年生?こんなの私やった記憶がないわ。何かの冗談でしょ?」




 結局。

 碧衣くんが小一時間で終わると言われていた小テストを私は三時間かけて行うことになったのだった。

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