第2話

「ふわぁ……」

 

 僕は大きなあくびを浮かべながら、朝食を食べ終えたばかりの歯を磨いていく。

 睡眠時間4時間未満……うぅ。普通に寝不足である。


「お兄ちゃん!」


「んぐっ」

 

 無心で歯を磨いていた僕の髪が後ろから引っ張られ、変な声が口から漏れる。


「……何さ」

 

 僕は歯ブラシを口に咥えたまま後ろを振り返る。

 そこにいるのは僕よりも頭一つ小さい美少女……僕の妹である神崎桜が立っていた。

 肩まで伸びたきれいな黒い髪に、ほんの僅かに紫がかったきれいな黒い瞳を持った美少女だ。

 家族の贔屓目を抜きにしても普通にアイドルになれるほどの綺麗さだと思う。


「寝癖!髪、ボサボサ!そのまま学校に行くつもりじゃないでしょうね!?」


 非難するような桜の黒い瞳が僕に突き刺さる。


「そのまま行くつもりだけど?直すの面倒だし」


 僕は桜の黒い瞳から逃げるように顔を背け、そう答える。

 学校とは勉強する場所なのだ。

 見た目を気にする必要なんてどこにあるのだろうか?いや、ない。

 ちゃんと勉強道具さえ持っていけば良いだろう。うん。

 

「最低限の身だしなみを整えるのは人間の義務なの!」


「どうやら僕は人間じゃなかったみたいだ」


 最低限の身だしなみを整えるなんて僕に出来ることじゃない。面倒にもほどがある……義務を果たすことのできない僕は人間と呼べないだろう。


「もー!仕方ないんだから。私がやってあげるから、しゃがんで」


「んっ」

 

 僕は歯を磨きながらその場にしゃがみ込み、桜のするがままに任せる。


「……ほんと。お兄ちゃんは私がいないと駄目なんだから」


「さいで」

 

 僕が虫歯にならないよう丹念に歯を磨いている中、桜は僕の髪を整えるのだった。

 

 ■■■■■

 

 桜に髪を整えてもらい、桜の用意したきれいな制服へと身を包んだ僕は久方ぶりに外へと出る。


「あー。暑い」

 

 外に出た一歩目。

 およそ一ヶ月ぶりに浴びた陽の光を前に僕は早くもGO HOMEしたい気分となった。


「あー。面倒。なんで学校なんて制度があるのだ……民衆が無知の方が上流階級も民衆を支配しやすいでしょ……うぅ」

 

 家でずっとゲームしていたい。

 早くベーシックインカム制度が確立され、無能が社会から排斥されるような世の中になってくれないだろうか。

 そしたら、無能である僕はずっと家に引きこもり、リテン氏を始めとしたネッ友たちとずっとゲームをしていられるのに。

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