6 警告文の犯人②

 ふたたび、あの足音が聞こえてきた。階段を下りきったような足音に次いで、赤く揺らめくひとだまじみた炎がパッと現れたのを杏奈は見た。


 人魂の大部分がたちまち赤いマントとドレスに形を変えていく。赤ずきんのマントとドレスに……。残っていた人魂の一部が激しく揺らめき、赤い目の鳩マスクに変化した。


「たまげるぜぇ……」と呟いた佐絵がおもわずスレッジハンマーを落とすほどの光景だ。杏奈も口を半開きにしながら、どすんと尻餅をついてしまった。


「なんだ、あれは!? どんなトリックだ?」

 若葉だけが現実を受け止めきれていない。幽霊が実在していた。そんなかいな現実を。

「ああ、そうか。立体映像だな。投影装置をあらかじめ仕込んでおいたんだろ。幽霊の足音も作り物だ。どこで流してる? スマホか?」


「大外れです。物わかりの悪い若葉さんに、もう一回だけ簡潔に言ってあげましょう」


 モナカはそう言うと、とどめを刺すような面持ちで、よどみなく力強く、推理を展開していく。


「警告文の犯人は、四人の寮生と元寮生をふくむ計五人のなかにいます。

 三回目の警告文のとき、杏奈さんの前に姿を見せた赤ずきんですが、それは正体発覚のリスクをともなう行為でした。ただし、たったひとりだけ、そんなリスクとは縁のない人物がいます。その人物は階段の陰に隠れて透明化することができます。たとえ杏奈さんがあのとき、すぐに追いかけてきたとしても完全にやりすごすことができたのです。

 くり返します――警告文の犯人候補は五人です。被害者の杏奈さんを差し引けば四人。その四人のうち、生きている人間に、透明化など不可能です。

 四人のなかから生きている人間三人を引くと、残りはひとり。

 この残りひとりは幽霊です。幽霊だから透明化できます。

 第四女子寮に取り憑いている幽霊は誰? 

 みなさん、ご存じですよね。

 吉野りんか先輩です」

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