4 殺人鬼①
「せっかくの計画が台無しだ。理屈屋のオカルトが
とても現実の光景とは思えない。心を切り刻まれた気分になり、目頭をうるませた杏奈が「嘘だよね?」とうめくと、若葉は笑いのツボにハマったときのような笑顔を見せた。
「現実だ。受け入れろよ、親友。不本意だが、わたしも受け入れた。皆殺しだ」
冷ややかに笑ったままの若葉が、鈍く光る銃口をモナカの額に定めた。
「どうして?」と、杏奈は喉の奥に突っかかる声を必死にしぼり出した。
「どうして? 杏奈は質問が多いよな。そういうところ、実は好きじゃなかった」
若葉はモナカに狙いを定めたまま、横目でちらりと杏奈を見た。
「殺人鬼ってのは本当だよ。わたしは親も祖父母も親戚も殺せるだけ殺してる」
衝撃的すぎて脳が砕け散りそうな発言だ。親も祖父母もいないとは聞いていた。
「微に入り細を穿つ
杏奈は我知らず激しくかぶりをふっていた。止まらない駒のように。
「読ませてくれって何度もお願いした杏奈の小説。あれさ、実はもう読んでるから。杏奈と出会う前に。モナカの言ったとおりなんだよ。あれをネットではじめて読んだときはびっくりしたなぁ」
若葉の優しい笑顔。おだやかな笑顔。仲よくランチでもしているみたいなそんな笑顔のまま、「ただし、ちょっとまちがってた」と残念そうにつけ足した。
「XとZはジムで仲よくなったって小説には書いてあったけど、現実はそうじゃない。民間のテニスサークルのほう。Xの両親が趣味でやってたテニス。Xもそれに付き合わされてたって小説にも出てくるけど、わたしとXの出会いはそっち。うちの親とわたしも入ってたんだよ、そのテニスサークルに」
外れていたのは、それだけ? もっとなにもかも全部外れていてほしかった……。
「人の想像力ってのは怖いよね。心底そう思わされた」
「杏奈はあの事件に別の真相があるならこうだろうって想像したわけでしょ。ほんと肝が冷えたよ。たとえ杏奈がわたしの正体に気づいていなかったとしても、いずれは気づくかもしれない。そう思わされた」
「それが動機ですよね、杏奈さんを殺そうとした」
若葉と拳銃から目を離さずにモナカが言った。
「杏奈さんは、こうおっしゃっていた。いまでもときどき思い出すと。Xの友人がテレビの取材のとき泣いていた顔を。彼女の必死の訴えを。その友人は最終的にはXの無実を信じきれずに警察の発表を受け入れたものの、新聞や週刊誌の取材を受けてテレビで顔出しまでしていた。すごく勇気のいること。杏奈さんは
そのとおりだ。だから杏奈は、いまでもあの事件のことが忘れられない。
「小説とはいえ、事実だと思って書いた部分に誤りがあるかもしれないから、いつかちゃんと事件のことを調べたい。軽い気持ちで関わっていい事件ではなかった。プロのノンフィクション作家になれたら必ず取材する。たとえ警察の発表と同じ結果になろうとも。杏奈さんは、そんなこともおっしゃっていた」
「そう。それだよ、それ」
若葉が長く深く、腹の底からすくい上げたような息を吐く。
「小説のモデルにした事件のことをちゃんと調べる。そんなことを言うから……。杏奈のおじいさんは成りゆきで名探偵みたいなこともやっていた。孫にもその才能があるかもしれない。実際のところ杏奈は賢いよ、わたしやモナカほどじゃないにしてもね。あの事件の真相に気づく恐れがある。なら、殺しちゃうでしょ」
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