5 赤ずきん④

 カードキーには頼らず、管理事務室のドアとキーボックスを破壊するという手もあるが、その場合は防犯センサーが作動して警報音が寮内に鳴り響く。管理会社にも数秒で伝わる。その際、こちらと連絡がつかなかったら、担当の社員が寮までやって来て場合によっては警察に通報される。だが、そんなことにはなっていない。


 外部の人間が寮生を襲ってカードキーを奪い取れば、キーボックスを破壊せずに展示室と地下倉庫の鍵を借りられるが、その場合は不審者が防犯カメラに映りこんでいないといけない。第四女子寮の防犯カメラに死角はない。部外者が侵入しようとすれば必ずカメラの撮影範囲内におさまってしまう。


 十七時十五分すぎに、杏奈と若葉は管理事務室に入ってカメラの録画映像を確認した。そこから三時間ほどさかのぼってチェックしたが、十七時すぎに管理員が退勤して、その二時間ほど前に杏奈と若葉が大学から帰宅した以外に、寮内に出入りした者は見当たらなかった。その確認作業中ずっとリアルタイム映像のほうもチェックしていたが、そちらでも不審者どころか寮関係者の出入りすらなかった。宅配業者やチラシを入れに来る者すら映っていなかったのだ。


 そもそも、寮の防犯カメラの映像は管理会社のほうでも閲覧可能らしい。常にチェックされているという。杏奈が確認した録画映像よりも前に不審者がこっそり忍びこんでいたら、確実に連絡が来るだろう。連絡が取れない場合は担当者が来る。現状、そうなってはいない。ならば、不審者の出入りはありえない。ありえないのなら、こっそり侵入した不審者が寮内で寮生からカードキーを奪ってキーボックスを解錠し、展示室と地下倉庫の鍵を拝借したという可能性もない。


 寮生が寮内に招き入れた友人、もしくは知人が、寮生のカードキーを奪い取った可能性もありえない。来訪者リストに名前が載っていなかったからだ。


 第四女子寮の来訪者リストには、泊まり客だけでなく、遊びで立ちよったり、短時間の用事で訪れた程度の者ですら記名させられる。


 管理員の退勤後、部外者の出入りがないのは映像で確認ずみ。管理員の退勤前に寮生が友人か知人を招き入れていた場合は、管理員によって来訪者リストに記名させられる。現実は、そうなっていない。ゆえに、寮生が友人か知人を寮内に招き入れた可能性はない。ないのなら、その友人か知人が寮生からカードキーを奪い取った可能性もない。


 以上のような理由から、管理事務室のキーボックスをあけて展示室と地下倉庫の鍵を拝借したのは、、という結論に達する。

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