5 赤ずきん②

 赤ずきんの背後の用具入れのドアがあきっぱなしになっている。用具入れにあったスレッジハンマーを赤ずきんが両手で持っていた。黒い手袋をした両手で。


「誰……モナカ?」

 ハロウィンのときのモナカのコスプレを想起してたずねたが、返事がない。

 モナカ……ではない? 


 若葉はいま、自分の部屋で男と電話中だろうから……佐絵さん? 

 時刻は十八時半。五時限目を終えた佐絵が最短で戻ってきたらこの時間だが、コスプレをする時間を加算したら、もっと早くに帰ってこないといけない。とすると、赤ずきんの正体は佐絵さんでもない? 


 赤ずきんが直立不動で立っている。背筋と、おそらくは足のほうもまっすぐに伸ばして。そのことが服の上からでも明確に見てとれる姿だった。ずいぶんと姿勢のいい赤ずきんだ。ドレスとマントのすその先端が、ほんのわずかに床についている。そのすそから靴の先っぽがはみ出していた。赤いフラットシューズが。ハイヒールのパンプスなら、りんかの幽霊が本当に出たのかと思って泡を吹いていただろう。


 杏奈が息を呑み、まばたきした次の瞬間、直立不動だった赤ずきんの背中がわずかに


 え……なにするつもり? と嫌な予感がした直後、今度は反対に前屈みになる。


 一度のけぞってみせたのは、勢いをつけるためか……!? まっすぐ立っていた足も膝のあたりを軽く折って――まちがいない、こいつ


 逃げろ! と杏奈の本能が告げたときには、赤ずきんのほうが先に走りだしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る