6 赤ずきんの衣装③

「五人目なんているかっての。だよね、杏奈?」


 解散後、若葉だけが杏奈の部屋についてきた。五人目の存在などてんどうせつと同じくらい信じてはいない。杏奈は若葉に同意しつつ、リビングの三人掛けソファに腰を下ろした。


「犯人はモナカで決まりだって。わたしはそう思う」

 立ちっぱなしの若葉は、いら立たしそうに眉間をもんだ。「今回の件だけじゃないよ。ハロウィンのときもそう。バーンブラックって、あのパンみたいなのに入ってた警告文も、杏奈のポストに投函されてた警告文も、犯人は全部モナカに決まってる」


 ポストに入れられていた警告文。杏奈はこれまでそのことはモナカにしか話していなかったが、ついでなのでさっき食堂で佐絵と若葉にも打ち明けておいた。


「全部、モナカの仕業だから。全部、全部、全部」

 リズミカルかつ断定的な口調だ。


「若葉がそう考えた根拠は?」

「モナカが不気味だから。あの部屋見たよね? 幽霊なんか信じてるし」

「論理的なやつをお願いします」

「理屈ならあるよ」

 若葉は不服そうに目を細めた。


「モナカは、どうにかして幽霊の存在をわたしたちにも信じこませたいんだと思う。一連の警告文をバーンブラックや杏奈の郵便受けに入れて、スプレーで落書きまでした理由がそれ。寮生の仕業じゃない、犯人は五人目です、吉野りんかのオバケがやったこと――わたしたちにそう思わせたくて仕方ないんだって」


 そうだろうか? 杏奈が同調しなかったからだろう。若葉は不機嫌そうだ。


「ねっ、なんで? なんで杏奈は、あんな変人をかばうわけ?」


 かばってなどいない。若葉の意見は論理的根拠に乏しいと思うだけだ。あらためてそう説明しても、若葉は空中をにらみつけ、いまにも爪とか噛みだしそうな雰囲気だった。


「杏奈、あんた被害者なんだよ。警戒しなよ。武藤モナカはまともじゃない。モナカが犯人なら、これから先、もっとやばい行動に出ると思う。オバケなんかより生きてる人間のほうがずっと怖いって、わたし前にそう言ったじゃん。あのオカルトちゃんには気をつけないと必ず痛い目見るよ」

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