6 赤ずきんの衣装②
「わたしとしては不本意ですが、あえて五人目が犯人である可能性を除外してみます」
細いため息まじりにモナカが言う。
「その場合、落書き犯は寮生四人のうちの誰かです。犯人が赤ずきんの衣装を着ていた理由は正体を隠すためだけではなく、杏奈さんにあえてその姿を見せつけることで、恐怖を植えつける意図があったのでしょう。そのほうが警告文の威力も増すでしょうから」
そのとおりだろう。誰からも反論が出ないのを確認してからモナカは話をつづけた。
「正体を隠したいだけなら夜中にこっそりと落書きすればいい。深夜であれば犯行現場を目撃される恐れはまずないと思います。その時間帯なら、みんな部屋にいる確率のほうが高いでしょう。最寄りのコンビニに行くのにも時間がかかるのが第四女子寮です。夜もふけてしまえば気軽に外には出られない。そんなことは寮生なら百も承知のはず」
そのとおりだ。
「にもかかわらず、わざわざ日が出ている時間帯を選んで犯行におよんだ。なぜか。ド派手な赤ずきんの衣装まで身にまとって。その姿を見てくれと主張しているようなものです。日中ならコンビニやスーパーに買い出しに行ったりするでしょう。杏奈さんはコンビニから帰ってくると赤ずきんを目撃して肝を冷やした。それが犯人の狙いでしょうね」
杏奈は苦い面持ちでうなずいた。
「とはいえ、赤ずきんの衣装を着ることでリスクも生じます。さっき部屋を見て回りましたよね。寮生の部屋で赤ずきんの衣装が見つかったら、その時点でアウトです」
「そうなるのをさけるために、地下倉庫の衣装を使ったのかな?」
杏奈が訊くと、モナカは心なしか頭を前へと傾けた。うなずいたようにも、首をかしげたようにも見える仕草だ。
「衣装は地下倉庫から拝借した――わたしも現状、そう考えています。しかし、この方法もノーリスクではない。倉庫から衣装を持ちだしたり、あるいは戻したりする際に目撃されるかもしれないから」
「だったら、モナカはなんで犯人が自前で衣装を用意したんじゃなくて、寮の地下倉庫から借りたって考えたわけ?」と、今度は若葉が質問した。
「物を買う、別の誰かから借りる。そのような行為におよべば必ず
それらにくらべたら、地下倉庫から衣装を借りるほうがまだしもと思ったのです。先に述べたように、衣装を借りるときと返すときに目撃される恐れはあります。しかし、わたしが犯人なら地下倉庫から赤ずきんの衣装を借りるだろうと思いました――先に述べたような方法と比較した結果、そうするはずだ、と。
杏奈が犯人でもそうしたかもしれない。モナカの話には説得力があると思った。
「これがただのイタズラなら、なおのこと。新たに赤ずきんの衣装を用意する
「たしかにな。で、今回のこと、警察には言うのか?」と佐絵に訊かれた。「いくらなんでも落書きはやりすぎだよな。通報しちゃうか?」
「それは……」
杏奈は迷った。「イタズラなら名乗り出てほしい。怒らないから」
誰も名乗り出ない。五秒、十秒と経過しても、みんな無反応だ。
「わかる。わかるよ、犯人ちゃん」
佐絵が全員に視線をめぐらせた。「イタズラで警察沙汰はさけたいって気持ちも、ほんの遊びだったのに大事になりそうで名乗りづらいって気持ちもな。でもさ、ありがたいことに被害者が怒らないって言ってんだ。大チャンスだよ。名乗り出ろ」
佐絵が笑顔で
杏奈は迷った末に、しばらく様子を見ることにした。いまは無理でも、後日、謝罪してくれるかもしれない。
「ところで、モナカに訊きたいことがあるんだけど」
喧嘩はよせと言われたのに、若葉の物言いには
杏奈は目を見張った。まさか、服装の一致のみで犯人と決めつけるつもりか? それはいくらなんでも無理筋だ。コスプレなんて誰でもできる。杏奈はそう思ったものの、若葉は異なる考えのようだ。鋭い目つきで、モナカをにらみつけていた。
「たしかにハロウィンでわたしは赤ずきんでした。でも、今回の件とは無関係です」
モナカはなにを言われても平然としているが。「犯人がこのなかにいるのなら、いまは絞りこめません。わたしはそう思います。あるいは、五人目が――」
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