4 新たなる警告②

「ちょっと、大丈夫!?」

 若葉はすぐに来てくれた。電話を切ってから三分と経っていない。


 友人の顔を見てあんした杏奈は、おそるおそる廊下に出て様子をたしかめてみた。


 赤ずきんはいない。落書きに使ったとおぼしきスプレー缶は転がったままだ。様子に変わりがないのは落書きも同じだった。


〈出ていけと言ったのに〉


 見まちがいではなかったようだ。ちゃんとそう書いてある。木製の玄関ドアに鮮血のような赤さで、でかでかと。軽めの動悸とめまいがする。杏奈はざわつく胸に手を押し当てながら、「ここに来るまでに……赤ずきん、見た?」と若葉に訊いてみた。


「見てないよ。いたの、ほんとに?」

「いたよ、絶対に」

 いまもどこかにいるはずだ。


 警察に通報しようか? そうすべきだけど、誰かのイタズラの可能性だってあるわけで……。もしそうなら、事件にはしたくない。まずは最低限の確認作業をすべきではないのか? すべきだろう。警察に通報するかどうかは、そのあとで決めたらいい。


 杏奈は若葉と一緒に一階の窓を全部たしかめることにした。実際に全部たしかめてみると、窓はひとつ残らず施錠されていた。外から無理やり押し入ったようなけいせきは見られない。


 管理事務室で防犯カメラの録画映像もきっちりチェックする。

 不審人物の出入りは……ない。そもそも、


 管理員の田中も十五時に退勤している。より正確に言うなら十五時四分に。防犯カメラの録画映像にはその姿がちゃんとおさめられていた。田中の退勤とともに管理会社の社用車も駐車場から走り去っている。彼が落書き犯である可能性はこれで完全になくなった。


 ドアに落書きされた時間帯に玄関と裏口から出入りした者はいない。各階の窓と非常口から侵入した者もかいである以上、たとえば、もうひとりの管理員、佐々木加代がひそかに第四女子寮まで来て館内に侵入した可能性も消える。佐々木も落書き犯ではない。


 犯人は寮内にいた人間だ。となると……。

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