4 新たなる警告①

 翌日、十二月十一日、土曜日。十六時三十五分。


 警告文は二度では終わらなかった。

 コンビニから帰ってくると、杏奈の部屋、四〇四号室のドアに赤い文字で落書きしてあったのだ。ドアの下にはこれ見よがしにスプレー缶が落ちている。


〈出ていけと言ったのに〉


 レジ袋が杏奈の手からすべってスニーカーの真横に落ちた。袋の中身はお弁当。チキンカツ弁当だ。あわててひろい上げながら、杏奈はドアの文字をぎょうした。


 三十分ちょっと前の十六時に、杏奈はコンビニに行くために四〇四号室を出た。そのときには、こんな落書きなどなかったと断言できる。


 今日は土曜日、管理員の勤務時間は十五時まで。本日の担当は田中和夫で、コンビニに行くために杏奈が十六時ごろに一階に降りたときには管理事務室は無人だった。


 勤務時間どおり十五時に田中が帰ったとしよう。十六時の時点でドアにはまだ落書きなどされていない。その一時間前に帰った管理員は、落書きの犯人ではありえない、ということになる。田中が帰ったふりをして館内にひそんでいたとしたら話は別だが、ひとまずその可能性は考えない。


 杏奈の四〇四号室は最上階にある。若葉が三〇八、モナカは三〇六号室で三階だ。吉野りんかも三〇六号室だったらしい。幽霊の実在を証明したいモナカは、りんかが三〇六号室で暮らしていたと知ったうえでその部屋を選んだのだろうか。選んだのだろう、きっと。佐絵は二階の二〇七号室だ。落書きの被害に遭ったのは杏奈の部屋の玄関だけだろうか。もしそうなら、やはり杏奈を名指ししていることになる。


 今回の落書きが一連の警告文の一部であり、同一犯の仕業だとしよう。その場合、犯人は寮生のはずだから……と杏奈がそこまで思考を進めた直後だった。下へとつづく階段の陰から、じっっっっっとこちらを見つめる陰気な視線に気がついた。


 赤い目の鳩マスクをかぶり、赤ずきんのコスプレをした何者かが……そこにいた。


 え? と言ったつもりが、声になっていない。頭のなかが雪原のように真っ白になる。杏奈は石像よろしく固まってしまった。その隙に赤ずきんは階段を下りていく。。その足音を、赤ずきんを追え、と理性が命じる半面、太ももがぶるぶると震えて動かない。


 杏奈は四〇四号室の玄関をあけてなかに入ると、おぼつかない手つきで施錠して、そのまま呆然と立ちつくした。まともに脳細胞が再稼働しはじめたのは二分後だ。

 若葉のスマホに電話する。「早く来て……!」とれの声でお願いした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る