第四章 過去――落書き
1 監視①
〈それ以上はやめろ〉
これが最初の警告文。十月三十一日、ハロウィンの日。寮の食堂の厨房に置いてあったパンのようなお菓子バーンブラックの内部に押しこまれていた。
〈ここから出ていけ〉
二回目の警告文がこれ。ハロウィン・パーティーから一週間後の十一月七日に、杏奈の部屋のポスト――四〇四号室の郵便受けに入れられていた。
警告文はどちらもB5用紙に手書きの文章でつづられており、なかなか綺麗な字だった。これらふたつの警告文の差出人は誰なのか? 杏奈の目には同じ筆跡に見える。同一人物による仕業? 単純に考えるなら、バーンブラックを作ったモナカが一番疑わしい。
そこで杏奈は申しわけないとは思いつつも、モナカのことを
杏奈は管理員が退勤したあとの管理事務室に入ると、デスクトップ型パソコンが置いてある机からリモコンを取りあげた。机のすぐ近くの壁に掛けられている三十二インチの防犯カメラ専用モニターのリモコンだ。玄関、裏口、非常口、各階の窓、駐輪場、駐車場の映像を分割表示中のモニターにリモコンを向けて、録画映像に切り替え、アーカイブを倍速で視聴する。何度かモナカが出てきた。モナカが映しだされた映像はすべてスーパーに行ったときのものらしい。必ずエコバッグをぶら下げて、戻ってくるときには、そのエコバッグに買ってきた食料がたっぷりとつめこまれていた。
リモコンで画面を操作する。モナカがスーパーに行った時間帯の、前後二時間の幅を持たせた録画映像だけを表示。一週間ぶんをチェック。それによると、どうやらモナカは毎日スーパーに買い出しに行くようだ。時間帯はほぼ決まっている。十五時から十八時のあいだ、完全にルーティン化していた。
そのうち、あの姫カットを維持するために美容室にも行くのかな? いまのところ外出はスーパーのみだ。相変わらず、講義は全部リモートか……。
モナカのそんな習慣にあからさまな変化が生じたのは、調査開始から一ヵ月ほどが経過した十二月二日、木曜日のことだった。
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