3 ブログ
地下から自室のリビングに戻ってきた杏奈は三人掛けのソファに腰をすえ、提出期限が迫るレポートはあと回しにして、スマホ内の写真管理アプリをタッチした。杏奈は子どものころから気になりだすと無視できない
ファイル名〈八年前の事件〉を選んでスクロールしていく。杏奈の目的に適う画像がすぐに出てきた。八年前、第四女子寮の食堂で撮影された集合写真が。当時の寮生がブログに載せていた写真だった。
ノンフィクション作家志望の杏奈は、八年前の事件のことはこれまでに何度も調べている。その都度、週刊誌や新聞の記事、関係者がSNSに書きこんだテキストや画像などをスクリーンショットして、スマホとパソコンの両方に保存していた。
スクリーンショットした画像には、杏奈が書いたメモも添付されている。画像を縦にスワイプさせると、次のようなメモが書き連ねてあった。
〈
事件のことで冷やかしにでも遭ったのか、最初からそのような設定なのか、コメント欄は閉鎖されている。他の投稿は削除したのだろうか、それとも元からないのか、見当たらない〉
写真のなかの吉野りんかは
写真を保存した日付を確認すると、一年半ほど前。当時はルポルタージュを書きたくなった際の資料集めだと思い、手当たり次第に関係がありそうな記事や画像を保存していたので一枚一枚さほど注意して見ていなかったから、ちっとも記憶に残っていなかった。吉野りんかは本当に赤いハイヒールのパンプスをはいていた……。
胸が凍りつくような感覚を味わいながら杏奈は息を呑んだ。
りんかは写真のすみで控えめにしていても、強烈に人目を惹く。コスプレのせいではない。一目瞭然の美人だからだ。少しだけくせ毛のロングヘアーがよく似合っていた。すらりとした細身で、身長は一六八センチ。なぜ身長まで知っているのかというと、ファッション雑誌に載っていたからだ。被写体のプロフィール欄に。
その手の雑誌では一般人に声をかけて撮った写真を掲載することがままあるが、美人のりんかは生前に何度もそうした依頼を受けては律儀に応えていたらしい。事件後、ファッション雑誌の当該記事を週刊誌が転載した。杏奈もそのスクリーンショットを持っている。
りんかの怨霊が実在するとしたら、彼女が死んだ日の格好で化けて出る気がしていた。赤いパンプスのハイヒールをはいて、カツンと足音を立てながら。理不尽に殺されてしまったその日が、りんかにとって、この世で最も強い恨みを抱かされた日なんだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます