8 武藤モナカ
第四女子寮の三階、三〇六号室が武藤モナカの部屋だ。
十月二十六日、火曜日。この日もすべての講義をリモートで
寝間着はたいていスウェットのセットアップで、それがないときは小中高の体操服を着ることが多い。今日は中学時代の体操服だ。赤いジャージ姿のモナカは、二十時すぎに寝室に入ると、まずは天井の換気扇を見上げた。
第四女子寮の全室に換気扇がある。わが寮で違法薬物が蔓延していた
モナカはげんなりしつつ、背徳の象徴だった天井の換気扇から壁へと視線を移した。
簡素な造りのシングルベッドが一台、ノートパソコンを載せた机と椅子、小ぶりな本棚がひとつあるだけの寝室だが、殺風景とはほど遠い。壁の
吉野りんかの怨霊は第四女子寮にいる。そのことをたしかめるためにモナカは第四女子寮に入寮した。わざわざ三〇六号室を選んだのだ。
「りんか先輩、そろそろ出てきてくれませんか?」
こうして呼びかけるのもルーティンだった。りんかは生前、この三〇六号室で暮らしていた。八年前のハロウィンの日にこの部屋で赤ずきんの格好で死んだ吉野りんか。
「先輩?」と、何度呼びかけても返事をしてくれないのは、このモナカが三〇六号室に来たせいですか? 別の部屋に引っ越してしまったのだろうか。うちの寮は空き部屋だらけだから、その可能性はある。
だとしても、このモナカのことを密かに監視するために、りんか先輩がこっそり訪ねてくるかもしれない。モナカは夕飯の買い出しから帰ってきて入浴するまでの時間だけ玄関のドアの鍵を外すことにしていた。りんかが侵入しやすいように。
亡くなった祖母いわく「映画のように壁をすり抜けられる幽霊は存在しない」そうだ。少なくとも祖母は「出会ったことがない」と断言していた。ただし、幽霊は透明にはなれるみたいだ。いま、この瞬間、モナカのとなりに吉野りんかが立っているかもしれない。モナカは微笑んだ。部屋のなかをぐるりと見渡しながら。
「わたしは、あきらめませんよ」
すぐ近くにいるかもしれない。その可能性があるかぎり、モナカは話しかけつづけるだろう。
「先輩、あなたに必ず会ってみせますからね」
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