7 黒島佐絵①
黒島佐絵の人生。それは嘘の多い人生だ。いま、真面目に大学に通っているのは本当だが、なぜそうしたくなったのか、佐絵自身ですらわからない。急に大学院に行きたくなった、だからその前に学部のほうを卒業しないと――周りにはそう言っている。これは嘘だ。なんでそんな嘘をついてまで大学に通いはじめたんだろうな?
直感かもしれない。そう思うことがある。
近々、自分は氷沼女子大学とも第四女子寮とも縁がなくなる。来年三月末までに全員が第四女子寮から退去するのは決定ずみで、それに関しては直感でもなんでもないが、大学とも縁がなくなる――これについては根拠のない直感だ。佐絵の直感はそこそこ当たる。
直感でなければ霊感だろうか? 直感はともかく、霊感なんてねえよ。それが佐絵の持論だ。世間一般の常識でもある。吉野りんかの怨霊が云々って話は、誰かの想像の産物でしかない。なぜそんな噂が生まれて広まったのか。大学〝八年生〟の佐絵は一応知っているつもりだ。三日前の飲み会で、杏奈と若葉にそのことを教えてやろうとしたら、酔いが回りすぎて言いそびれた。
あれから三日、十月二十五日、月曜日。
佐絵は昼休みに大学の売店でローストビーフのサンドイッチとミネラルウォーターを買った。アルコールが入らないと基本的には小食なのだ。昼食はいつもひとり、いまさら大学で新しい友だちを作ろうとは思わない。友だちなんてずっといない。それでいい。
西洋風のクラシックな内装の売店から出ようとすると、杏奈と若葉に出くわした。向こうも今日は売店で昼飯を買うそうだ。
「信じられない。佐絵さん、ほんとに大学にいるじゃん……」
若葉は恐竜にでも遭遇したかのような表情だった。杏奈は取りつくろうような笑顔で、友人のわき腹を小突いている。いいコンビだ。うらやましいとは思わないが。
「わたしが嘘つきじゃないって、これでわかったか」
嘘つきほど嘘つきではないと主張する。嘘つきの自分が言うんだからまちがいない。
「疑ってすみませんでした。……これ、お詫びにと言っては、なんですけど」
若葉がシュークリームをひとつおごってくれた。別に欲しくもないが、もらえる物はもらう主義だ。佐絵は学内の中庭で、杏奈、若葉と一緒に昼食をとることになった。
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