5 独り言

 飲み会が終わって部屋に戻った杏奈は、さっさと風呂に入ってベッドにもぐりこんだ。吐くほどではないけれど、ちょっと飲みすぎた。頭がくらくらして寝つけない。


 それに……忘れてた。佐絵さんに怪談のこと訊くの。


 八年前の事件には〝別の真相〟がある。古坂はもう殺されていて、その犯人は吉野りんかの怨霊で――なぜそんな怪談が生まれて、広まったのか。そこが若葉と共同で行う予定の卒業制作のかんじんかなめ、新規性なのに、九億円のルビーリングのほうに気を取られて、会話もそっちのほうが盛りあがった結果、失念してしまった。


「卒業制作、『氷沼紅子のルビーリングを探せ』に変えようかな」


 眠れない。独り言も止まらない。「意外と悪くないんじゃない?」


 冗談のつもりだったのに、ありなんじゃないの、という気がしてきた。ルビーリング探しのノンフィクション。そっちのほうが楽しそうだ。


 佐絵に教えてもらった謎のアルファベット。村木の手帳に書かれていたらしいけど、意味深……。佐絵が言うようにルビーリングの隠し場所と関係があるのかな? 


「ピジョン・ブラッド、ルビーリング、九億円の……。どこにあるんだろう?」


 うすくまぶたをあけると、常夜灯の淡いオレンジ色の明かりが薄闇に浮かんでいた。


「あるとしたら、あそこかな……?」


 地下展示室。だってあそこには、いかにも怪しい、――。


「四つの……」

 アルコール漬けの意識が急速に薄れていく。ぷつりと思考が途絶える。やっと眠たくなってきた杏奈のまぶたが、すとんと落ちた。

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