7 幽霊を信じる者②
「モナカ!」
不意打ちを食らった杏奈は、おどろいた勢いで一歩後退する。「うっそ! 久しぶりじゃん!」
「はい、モナカです。お久しゅうございます」
忍者よろしく足音を立てず、すっとドアの陰から出てきた彼女の名前は、
若葉ほどではないが背が高くて、佐絵ほどではないがスレンダーな体型の大学一年生。杏奈、若葉と同じ教養学部の学生だが、学科がちがう。モナカは人文科学。
「若葉さんもお元気そうで、なによりです」
うやうやしくお辞儀したモナカは、明るめのブラウンの髪を姫カットにしている。前髪は眉のあたりでパッツン。サイドの髪はあごのラインで切りそろえ、うしろはロングヘアの姫カット。
「相変わらずの堅苦しさ。佐絵さんじゃないんだから、たまには顔ぐらい見せてよ」
珍獣を眺める目つきで笑った若葉に、モナカはあらためてお辞儀した。
「ちょいちょい、若葉ちゃん。訂正しろや。今年のわたしは引きこもってねえから」
こんなふうに超陽気な佐絵とはちがって、モナカは感情の起伏に乏しい学生だ。
いつなんどきもメガネをかけ、パッと見はクールな秀才だが、黒いスウェットのセットアップはたぶん寝間着で、裸足に草履の組み合わせだからズボラな印象だった。
「モナカ、講義はどうしてるの? 全部、リモート?」
杏奈が質問する。モナカは小鳥のように、ちょこんとうなずいた。
リモートだから寝間着でもいいらしい。
「他人の目は気にしません」
だそうだが、モナカは誰しもが認める美女だ。他人の目を磁石のように惹きつける。
モナカが第四女子寮に入寮してきたとき、時期が時期だっただけに杏奈はびっくりした。
金輪際、新規の入居者なんぞ絶対に出てこないだろう。露骨にそんな雰囲気だったのに、杏奈の予想に反して入寮してきたのがモナカだった。
モナカはオカルトが大好物らしい。ただし、杏奈のようにフィクションとして楽しんでいるのではない。彼女は大真面目に信じているのだ。幽霊の存在を。
われらが第四女子寮には八年前に死んだ吉野りんかの怨霊が取り憑いている。
この噂の真偽をたしかめるために、モナカは第四女子寮にやって来た。
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