3 ふたつの事件③

 これら一連の出来事が、八年前に起ったふたつの事件のあらましだが、それとは別に、こんな噂も伝わっている。


【村木と依田を殺害した犯人は古坂一郎ではない。真犯人は吉野りんかで、おんりょうとなった彼女が村木たちを呪い殺したのだ。

 古坂一郎もすでに殺されている。りんかの怨霊に殺された。

 りんかは村木たちを殺したあとも成仏できずに、第四女子寮に取り憑いている】


 信じるに値しない与太話だが、なぜそんな怪談が生まれたのだろうか? たんなる遊びか、それとも、なにか意図があってのことか? 誰がその噂話の〝著者〟なのか? 古坂一郎はいまどこにいて、まだ生きているのか? 


 そのような事件後に残された謎、発生したオカルトなども掘り下げて考えてみたい。事件の再検証だけなら、ジャーナリズム学科の先輩たちがさんざん卒論や卒業制作のネタとしてあつかってきた。卒業論文、卒業制作、どちらを選ぶにしても新規性が必要らしい。ゼミの教授からそう指摘された。杏奈がオカルト話にあえて着目する理由は、先行研究にはなかった新規性を持たせるためだ。ジャーナリズム学科の先輩たちが一様に生真面目で、オカルト話なんぞにもかけなかったことは、八年前の事件をあつかった卒業制作のルポルタージュなり論文なりを読めばわかる。


 そんなわけで杏奈は、バカバカしい噂話をあえて無視することなく、積極的にリサーチしたい所存なのだ。

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