熊との邂逅、命の危機。
その日の岩見沢市は氷点下9度。
のばらは悴んだ手に息を吐きながら震えていた。心なしかみゆ莉との距離も近く、ぴったりと密着してくるのはきっと寒いからだろう。
「ずっと気になっていたのですけれど、みゆ莉さんのその服装、寒くありませんの?」
のばらはみゆ莉の赤らんだ膝小僧を見ながら言った。
みゆ莉は中学の頃のジャージにマフラーという奇怪な服装である為、のばらが不思議に思うのも無理はない。
「ぜーんぜん。今はあたし達以外いないから分からないと思うけど、意外とみんなこんなもんよ。オシャレの方が防寒より大事だから」
「オシャレ? 失礼ですけど、どの辺りがオシャレですの?」
「え? このジャージ以外に何があんの?」
みゆ莉は小豆色のジャージを見せつけるようにくるりと回って見せた。
「のばらもやってみなよ。だんだん麻痺して何にも感じなくなるから」
「お断りしますっ!」
✳︎
熊——。
それは、
世界には8種類の熊がおり、日本にはそのうち2種類の熊——ツキノワグマとヒグマが生息している。
熊が危険な動物だということは周知の事実であり、熊といえば木彫りの熊や有名なクマ牧場がある北海道を想像する人も多いかもしれないが、本州以南に生息するツキノワグマによる被害も多発しているらしい。
しかし、北海道のみに生息するヒグマはそれの比にならない程に大きく凶暴である。
最近では人に慣れ、街に出没するシティボーイならぬシティベアも増えて来ており、人々の生活を脅かしているものだ。
(でもぶっちゃけ、熊の目撃情報があっても学校は普通にあるもんなぁ。先生も軽く一人での登下校は避けるようにって言うだけで集団下校なんて無かったし⋯⋯。それに、例え数人で登下校したとしても丸腰の学生に何が出来ようか。その中から生贄を決め、熊に差し出せということだろうか)
みゆ莉が一人、口を閉し思い
「みゆ莉さん⋯⋯何かしら、あの大きいワンちゃんは。こちらに向かって来ているようですけど」
「ん? 犬?」
「ええ。ほら、あちらに」
「っ!」
みゆ莉よりも遥かに大きく真黒な動物が毛を逆立て物凄いスピードでこちらに向かって来ていた。
遠目で見ると一見、大きめの犬にも見える。しかし、その正体は——
「熊、だあァァアッ!!」
思わず絶叫したみゆ莉は、のばらの手を取り走り出した。その後ろには熊を威嚇しながら走るモモタローが続く。
熊に遭遇した際に背を向けて走り出すのは最悪手だが、実際に出会ってしまえばそんな事はすっかり頭から抜け落ちてしまっていた。
「っ⋯⋯とりあえず木の上に避難するよ、のばらっ!」
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