第24話 決戦3
「きゃああああああっ?!」
結界が敗れた衝撃で、吹き飛ばされるノア。
「望愛さんっ?!」
玲華さんが吹き飛ばされたノアの方に駆け寄るため、踵を返そうとした。玲華さんはいま僕たちに背中を向けていて、無防備だ。
今しかない!!
ロングソードを握り締め、駆ける。
ふと隣に意識を向けると、同じようにフランベルジュを低く構え走るユキノの姿が。ユキノも僕と同じように、今を好機と見たんだろう。玲華さんには恨みは無い……というか凄い人だと思うしむしろ好感を持っている。だけど、僕はこの世界で生きていくんだ。
「勅使河原さんっ?!」
剣を構えて走り寄る僕たちに驚いて拳銃を構えようとした剛也さんが、表情を歪める。
剛也さんの位置は玲華さんの真後ろ。玲華さんを挟む形になるから、そこから僕たちを狙うことは出来ない。位置を移動してからの射撃では――間に合わない!
「ごめんっ!」
ユキノとほぼ同時に、玲華さんに向かって剣を振り下ろす。
その剣閃が玲華さんに届く瞬間――
「仕方ない、慣れない事はしたくなかったが」
奔る黄金の閃光。
キィンという金属音と共に、ロングソードとフランベルジュが弾き返された。
「え?」
隣では同じように戸惑いの表情を浮かべるユキノ。
そして目の前では――
両手に輝く光の剣を握り締めた玲華さんの姿。
その剣は、物理的な剣ではなかった。黄金の光で形成された、魔法か何かで出現したような剣。でも、あんな魔法は憑依魔法にも顕現魔法にも存在しない。魔法ではないとすると……まさか、ギフト?!
戸惑う僕に玲華さんが、にやりと不敵な笑みを浮かべた。
「異世界にやって来た日本人は、
してやったり、と言いたげな笑み。
「これが私の
「そんなぁっ?! 玲華さんもギフトを持ってるのぉっ?!」
「くっ……?! ギフトまで持っているなんてっ……スキルだけでも苦戦しているのにっ!」
思わず愚痴が漏れた。
玲華さん達はさすがは公安と警察の人という感じで、なんというか荒事に慣れている感じがする。僕がこの世界で初めて魔物と戦った時はそれはもう動揺して酷かったものだけど、この世界に来て一週間程度の玲華さん達からそういう感情は感じられない。スキルだって早々に取得してしまっているし、それにノアの結界と魔法が合わせると非常に戦いづらい相手となっていた。
そこに、さらにギフトが加わる?
玲華さんが両手に持つ光剣が舞う。
「くっ……?!」
玲華さんは剣術スキルはさすがに持っていないみたいだけど、剣道でもやっていたのかその動きは淀みない。
二刀流は難しいはずだけど、その二本の光剣は玲華さんの手の中で縦横無尽に奔る。
描き出される二振りの光の軌跡は、さながら一対の黄金の翼のよう。その光の斬撃が、僕とユキノに次々と襲いかかる。
「わわっ?! ちょ、ちょちょちょっ……?!」
「くうっ……! なんて攻撃だっ?!」
僕とユキノが必死で応戦する。
こちらは二人であちらは一人なのに、攻撃を捌くので精一杯。
「ふむ、まだ届かんか。……九鬼!!」
戦闘の攻防を一変してしまうような強力なギフトを見せたにもかかわらず、冷静に攻撃を繰り出していた玲華さんが叫んだ。
「分かっているであります!」
その声を聞き、剛也さんが目の前で両手をぱん、と合わせる。
「
その瞬間、玲華さん・剛也さん・ノア・SP達の姿が光に包まれる。
「剛也さんもおっ?! そんなの反則じゃんっ?!」
「玲華さんだけでなく剛也さんもギフト……それも
ユキノと僕から、思わず叫びが漏れた。
でも、一瞬でそんな余裕は失われる。
光に包まれた玲華さんの力がぐんと増し、一息でユキノと僕を突き飛ばしたからだ。
「うあっ?! なんなのぉっ? 急に力が強く?!」
「剛也さんのギフトのあの光かっ……?! それで力が増したのかっ?!」
そう、明らかにあの光のせいだ。
剛也さんがギフトを使ったら玲華さん達が光に包まれ、その途端力が強くなった。と、いう事は仲間の能力値を上げる、バフ系のギフトという事に違いない。
休みなく剣を繰り出しながら、玲華さんが軽く笑った。
「べつにネタばらししても構わんか? そうだ、九鬼のギフト
言いながらも、その光剣は止まらない。
流れるような双剣に加え、剛也さんのギフトの効果で速度も力も向上している。僕とユキノは攻撃を防ぐので精一杯で、ずるずると後退していく。
「ご主人様!」
レティシアが悲鳴のような声を上げた。
レティシアは回復の効果を持つ祝福のギフトを持っているけど、魔法は使えないし剣だって当然使えない。見ると、ファニは立ち上がったノアと牽制の様に魔法を撃ちあっていて、こちらに援護は難しい状況だ。
僕たちで何とかするしかない。
「調子に乗らないでよおっ?! ギフトにはギフトよぉっ!
劣勢のこの状況にしびれを切らしたユキノの瞳が、ぎらりと紅く輝く。
「すまんな、そのギフトの事は聞いているよ」
玲華さんが、すっと視線を足元へと落とす。
後ろに見える、ノアや剛也さんも視線をそらしたのが見える。
ユキノのギフトは目を見るだけで相手を攻撃できる便利な能力だ。だけどそれほど攻撃力の強いギフトではないし、目をそらすだけで攻撃を避けることが出来る。どちらかと言えば初見殺しのようなギフトで、理解してしまえば対応は容易だ。
視線をそらしたままにも関わらず、玲華さんの剣の速度は衰えない。
「ぐうっ……?!」
玲華さんの攻撃を受け止めた腕が、びりびりと痺れる。
光の剣は縦横無尽に奔り、僕とユキノはしのぐだけで精一杯。
「君達を傷つけたい訳じゃない! 大人しく投降するんだ!」
攻撃の手を休めず、呼びかけてくる玲華さん。
「いやよ! わたしはこの世界でカナトとずっと一緒にいるの!」
「僕もそうだ! この世界でユキノと一緒に生きていくって決めたんだ!」
玲華さんが表情を歪める。
「そんなに日本に帰るのが嫌なのか?! 全く理解できん、望愛さんの言うとおり辛い事もあっただろうが、なにか楽しい事はなかったのか?! 状況を変えるために努力はしたのか?!」
玲華さんのその言葉に、今度はユキノが怒りの表情を浮かべる。
「またそれぇ?! わたしには何もなかった! 玲華さんはスゴイ人だし能力もあるんだろうし、それに家だって裕福なんでしょ?! あなたにはわたしの気持ちは分からない。上から目線でエラそうに言わないで!!」
「ちっ?!」
ユキノのフランベルジュが、上位剣術スキル、テンペストブレイクの軌跡を描く。
玲華さんに同時に迫るいくつもの斬撃。玲華さんはたまらず、両手の光剣でユキノのテンペストブレイクを次々叩き落とす。
そうなると、僕に飛んでくる攻撃は止む。
今が攻勢に出る絶好のチャンス!
「ユキノの言う通りだ! この世界は老いもなく長生き出来て、みんな優しい思想的な世界だ。嫌な事ばっかりあった日本なんかより、この世界で生きてきたいんだよ! 放っておいてくれ!!」
盾を正面に構え、ロングソードを構えて突進する。
剣術スキルを放とうとした瞬間――
「勅使河原さんッ! アローレイン!」
剛也さんの声と、パァンという銃声。
「くっ……! キャッスルガード!!」
スキルの光に包まれた盾で、飛んできた銃弾を防ぐ。
思わず周囲を見回すと、いつの間にか大勢いた衛兵は全て制圧されていた。SPも二人倒れていたけど、残り三人のSPと剛也さんが僕やユキノを中心に円状に展開しようとしていた。
「まずい、囲まれる!」
周りを取り囲まれて一斉に銃で撃たれたら、魔法があるとはいっても対応出来なくなる可能性がある。それは避けないと!
でも、どうやって?
「まかせてぇ!」
ユキノの声と、そして再び赤く光る瞳。
「またギフトか?! それはもう効かないと分かったはずだ!」
玲華さんがすっと視線をそらす。
視線をそらしつつ、剣を振るう手を止めることはない。その剣がユキノに迫ろうとした時――
「
「なっ?!」
ユキノの全身が炎に包まれる。
目の前に突如出現した炎に、驚愕の表情を浮かべる玲華さん。ユキノの瞳は赤く爛々と光っていたけど、その瞳は焦点が合わずどこか遠くを見つめるような視線だった。その光を失った目を見ると、ノアと争いになったあと我を失ってギフトを暴走させたユキノを思い出す。
そうか、あの暴走状態を意図的に作り出して、ギフトの新しい使い方として使えるようになったのか!
ユキノを包む高温の炎から避けようと、玲華さんが反射的に身をよじる。
するとユキノを狙っていた光剣は逸れ、無理な姿勢で炎から逃れようとした玲華さんの体勢が崩れた。
「ここだっ! シールドバッシュ!!」
「ぐうっ?!」
盾術スキル、シールドバッシュで玲華さんに突進。
大した攻撃力は無いスキルだけど、突進力だけはある。玲華さんは勢いよく迫る盾に弾き飛ばされ、ごろごろと転がる。
態勢を整えるなら、今!
「僕が玲華さんを抑える! ユキノはノアを取り押さえて、ファニは剛也さんとSP達を牽制して!」
「了解だよぉ、カナトもがんばってねぇ~~?」
「分かったよっ! がんばるよ、ファニも!」
声を上げると、ユキノとファニが頷いてくれる。
「ご、ご主人様! わたくしも役に立つのです、祝福!」
レティシアのギフトの光が僕たちを包み込み、細かな傷や疲れた体を癒してくれる。
「ありがとう、レティシア!」
これなら行ける!
さぁ、一気に攻勢に出るぞ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます