第22話 決戦1
レティシアの言葉を聞き、謁見の間の両端に整列していた衛兵が、手に持っていた槍を構える。
「処刑っ……?! そんな、カナトくん、ユキノちゃんっ……?!」
「くうっ……! そこまでやるというのかっ!?」
驚きの表情を浮かべるノアと、苦虫をかみつぶした様な表情の玲華さん。
その様子を見ていると、申し訳ないという気持ちがわいてくる。
だけど、ごめん。僕はもう決めたんだ。
「反逆者を処刑するんだ!」
「くらえ、反逆者!」
槍を構え、玲華さん達に向かって突進する衛兵たち。
「仕方ないか……。公務執行妨害で障害を強制的に排除する、あらゆる手段の使用を許可する!!」
玲華さんの声が響いた後
パァン!
パァン!
破裂音のような音が響き、二人の衛兵が倒れる。
いつの間に取り出したのか、玲華さんと剛也さんの手に握られていたのは黒光りする
「拳銃ッ?!」
思わず声を上げる。
玲華さんは公安、剛也さんは警視庁の人間だ。たしかに拳銃を持っていても不思議じゃないけど、その事をまったく考えていなかった自分に愕然とする。
「な、なんだッ?!」
「魔法か? しかし、あんな魔法見た事ないぞ?!」
見たことのない攻撃に動揺し、うろたえる衛兵たち。
「ご、ご主人様、なんですか、あれは?! 異世界の魔法ですかっ?!」
レティシアも動揺している。
そんなレティシアを片手で下がらせると叫ぶ。
「ユキノッ!」
「はいは~~い、分かってるよぉ~~?」
フランベルジュを抜き放ち、玲華さん達の方へ一直線に走るユキノ。
「九鬼は私とともに征乃さん達を無力化! あとの者は衛兵たちを牽制しろ!」
「はっ!」
さすがに対応が早い。
玲華さんは一瞬で指示を飛ばすと、剛也さんと一緒にユキノの方へ拳銃を向ける。
ふたたび、パァンパァンと発砲音が響く。
「パリィサークルっ!」
ユキノが叫ぶと、フランベルジュの剣閃が縦横無尽に走り、拳銃の弾丸を叩き落とした。
「バカなッ?!」
発砲した銃弾が防がれたことに、驚愕の声を上げる玲華さん。
上位剣術スキル、パリィサークル。攻撃範囲に入ってきた攻撃を、パリィで叩き落す高度な技術を必要とするスキルだ。僕は使えないけど、このスキルを扱えるユキノには生半可な遠距離攻撃は通用しない。
そのままの勢いで、玲華さんまで迫るユキノ。
「玲華さん、あぶないっ! アイシクルランスっ!!」
玲華さん達の後ろにいたノアが、ユキノに向かってアイシクルランスを発動する。
一抱えはある大きさの氷の槍がいくつも出現し、ユキノに向かって降り注ぐ。
「あらら、それはちょっと無理かもぉ~~」と後ろに飛んで躱すユキノ。
パリィサークルが魔法を迎撃できないって訳じゃないけど、パリィサークルは剣で打ち落とせる物しか迎撃できない。アイシクルランスで生成される氷の槍は、質量が大きすぎてパリィサークルじゃ迎撃しきれない。
「下がってよっ、ユキノさんっ! サンダーフォール!!」
ファニが杖をかざすと、杖の先端から稲妻が発生し玲華さんの方へと落ちる様に飛んでいく。
「させませんっ、絶界・
ノアが叫ぶと、ノアを中心に玲華さんと剛也さんも光り輝く結界に覆われた。
ファニの放ったサンダーフォールが、結界に阻まれて霧散する。
その後もファニと、僕も合わせて魔法を放つけど、ノアの結界は小揺るぎもしない。
やはり、ノアの結界は強力だ。
あれを突破することは難しいけど、あちらもこちらに攻撃できない。内から魔法を放つことは可能だけどノアは結界を展開しているから魔法を放てないし、玲華さん達の銃は結界を通過できない。
戦況が膠着状態になったとき、ノアが悲痛な表情で叫んだ。
「ユキノちゃん、カナトくん! もうやめて下さいっ! 私達が戦わないといけないなんて、おかしいですっ!」
「そうだ、こんな罪を重ねるような真似はやめるんだ! 大人しく投降しろ、そうすれば罪も償えるし親も安心するぞ!」
ノアの叫びに合わせるように、玲華さんも投降を呼びかけてくる。
ふたりとも、おそらく本当に僕の事を考えてくれているんだろう。
だけど、ごめん。
視線をずらすと、剛也さんの部下のSP達と衛兵達の戦闘も始まっていた。
SP達は魔法という未知の攻撃に、衛兵たちは銃という見たことも無い攻撃に警戒し、お互いに牽制しあっているような雰囲気だ。
もう戦いは始まってしまった、後戻りは出来ないんだ。
「悪いけど、親のことはもういいんだ。僕はこの世界でずっと生きていく、親には悪いけどそう伝えておいて!」
そう言うと、ファニの方へ叫ぶ。
「ファニ、顕現魔法だ! 二人で顕現魔法をどんどん叩き込むんだ、そうすればノアの結界だって耐えられない!」
「分かったよっ! カナト様っ!」
そう言って精神集中に入った僕とファニを見て、ノアが顔色を変える。
そうだ、ノアの結界だって絶対じゃない。試したことはないけど、二人で次々顕現魔法をぶつけたらおそらく耐えられない。
「だめっ! 玲華さん、二人がかりで顕現魔法を撃たれたら耐えられませんっ!」
「ちっ、仕方ないか。望愛さん、結界を解いてくれ!」
顔を青ざめたノアの叫びを聞いて、玲華さんが舌打ちをして指示を出す。
その指示を受けて、解除されるノアの結界。
思った通りだ。
僕たちが顕現魔法を使おうとすれば、ノア達は結界を解除すると思っていた。近接戦闘になれば顕現魔法は危険すぎる。ファニにも手で指示を出し、顕現魔法の使用をいったん中止する。
「九鬼ッ!」
「分かっているであります!」
短く叫ぶ玲華さん。
剛也さんが拳銃を低く構え、こちらへ突っ込んでくる。
突っ込んできた?!
まさか剣術を得意とするユキノに、近接戦闘を挑むつもりか?!
「ユキノっ!」
「はいは~~い! わたしもいい所見せないとねぇ~~?」
かりかりと、フランベルジュを引きずりながら走るユキノ。
ユキノの剣術の腕はかなり高い。上位の剣術スキルを使いこなすユキノが、警察官とはいえただの一般人に負けるとは思えない。
剛也さんは走りながら拳銃をユキノの方へを向け、叫んだ。
「弓術スキル、アローレイン!」
「え?」
「はぇっ?」
パァンという銃声が何重にも重なって聞こえる。
「うわわっ、パ、パリィサークル!!」
ユキノがスキルを発動、奔る幾重もの剣閃、そしてガキキキキッ、とフランベルジュが銃弾を次々と弾き飛ばす音が響く。
パァン!
パァン!
パァン!
続けて三発。
銃声は、どれも一つの音ではなく幾つも重なって聞こえた。ユキノを襲うのは、アローレインの効果で数十に分裂した弾丸。
カキキキキンッとユキノのパリィサークルが銃弾を弾き飛ばすけど、追いつかない。
「うああっ?!」
「ユキノーーッ!!」
打ち込まれる銃弾を捌ききれなくなったユキノが、手や足から血を流しながら倒れる。
駆け寄りながら、僕の頭は混乱していた。
アローレイン?
日本人である剛也さんが、弓術スキルを使った? しかも拳銃で弓術スキルを?
たしかにスキルはだれでも訓練すれば使えるようになるし、剛也さん達でも使えるようになると言ったのは僕だ。でも、彼らはこちらの世界に来てまだ一週間くらいだ。もうスキルを習得したのか? どうやって?
ちらと視線をずらすと、なにか申し訳なさそうな表情のノアが目に入った。
ノアか?!
弓の得意なノアが彼らにアローレインを教えたのか?!
剛也さんが拳銃の空薬莢を捨てて新しい弾薬を装填しているのが見える。
そして、その隣には拳銃を構える玲華さんの姿。
「まさか、玲華さんも?!」
にやり、と笑う玲華さん。
「アローレイン!」
玲華さんの声と、またも幾重にもぶれて聞こえる銃声。
弓術スキル、アローレインによっていくつにも分裂した銃弾がユキノを襲う。
「くっ……間に合うかっ?! キャッスルガード!!」
ユキノの前に回り込み、盾術スキル、キャッスルガードを発動。
構えた左手の盾が光に包まれる。
ガキンガキンと、キャッスルガードで強化された盾が銃弾を防ぐ。
けど
「ぐあっ……」
あちこちに銃弾がかすめ、激痛が走る。
キャッスルガードは、あくまで盾を強化するスキル。盾で防げる範囲の攻撃しか防げない。
パァン、パァン!
続けて二発。
マズイっ?!
「カナト様っ! ウインドバリア!」
ファニが風魔法ウインドバリアを発動。
僕とユキノを中心に風が渦巻き、風の結界を形作る。とはいえ、あくまで強い風で護っているだけで、ノアのギフトのような絶対的な防御力を持っている訳じゃない。半分くらいの銃弾が風の結界で逸らされ、もう半分くらいがキャッスルガードで強化された僕の盾で弾かれる。
「あ、ありがと~~、カナト。危なかったよぉ……」
「いや、僕もまさか玲華さんと剛也さんがスキルを使うとは思っていなかったし、仕方ないよ」
たはは、と苦笑いしながら言うユキノ。
ユキノは体を起こそうと力を入れるけど、足の傷が深いみたいでほとんど動いていない。見れば、右足に銃弾が貫通していて血が止まらない。
仕方ない、隠していた手札を一枚切るしかない。
「レティシアっ!」
「分かっていますっ! わたくしの能力を認めていただいて、ご主人様の愛を与えてもらうのですっ!」
豪華な椅子の後ろに隠れていたレティシアが、両手を目の前で組み合わせ、ぎゅっと目をつむる。
「ギフト、祝福!!」
レティシアの声に応えるように、レティシア自身、僕、ユキノ、ファニ、そしてSPと戦っている衛兵たちの身体が白い光に包まれる。
すると目の前のユキノの傷が、するするとまるで時間を巻き戻すように治っていく。
遠くの衛兵たちも「おお、怪我が治っていくぞ!」「領主様のお力だ!」などと声を上げる。レティシアを攫ってセックスして何でも言う事を聞くようにするまで知らなかったんだけど、これがレティシアの持つギフト、レア
レティシアが仲間と認識している人たちの怪我を癒す事の出来る、
「回復系のギフト?! しかも領主様のギフト?! そんなっ!」
びっくりしたノアが声を上げる。
この世界の魔法には回復魔法というものが存在しないため、回復系のギフト持ちというのは非常に重宝される。しかしそれは同時に面倒ごとの種にもなるし、良い事ばかりではない。だからレティシアは、ギフトを隠すように幼いころ父親に言われていたらしい。
……それを僕が聞き出してお披露目してしまった訳だけど。せめて、レティシアが望むものは与えてあげようと思う。
でも、これで仕切り直しだ。
今度はこっちから行くぞ!
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