第21話 帰還

「カナト様は、性奴隷であるわたくしのご主人様なのです。非礼はゆるしません」


 膝の上で僕にしなだれかかっていたレティシア様……いや、レティシアが目の前の玲華さんに向かって言った。


 思わず、すこし顔が赤くなるのを感じる。自分の膝の上で可愛い女の子が、自分の性奴隷だと宣言するっていうのは……なんというか凄い事態だ。これが僕のギフトのもたらした結果だという事に我ながらすこし恐怖を感じるけど……これも僕たちがやった事の結果だと受け止めるしかない。


 あれから僕たちはレティシアをさらって閉じ込めて犯し続けた。

 その結果レティシアの自我は崩壊し、自分の事を性奴隷だと胸を張って主張するようになってしまった。僕の事をご主人様と呼び僕の言う事は二つ返事ですべて受け入れる。そして、その代わりにご主人様の愛を注いでください、と形の良いおしりを向けてくるんだ。


 正直男としては嬉しいし、なんというか……そそる。


 だからあれから何度も行為を重ねてしまったけど、僕たちは領都のレティシアの屋敷に戻って来た。

 戻ってからの行動はとくに考えてはいなかったんだけど、戻るなり玲華さんから面会の申し込みがあったらレティシアに受けてもらい、みんなで出向いてきたんだ。なにがあってもいいように、広いスペースのある謁見の間で。


「くうっ……!」


 目の前の玲華さんが、悔しそうに顔をしかめた。

 ノアもびっくりした表情を浮かべているのが見える。


 悪辣、なんて叫んでいたから僕のやったことを不快に感じているのは分かる。玲華さんは正義感の強い人だから、そう感じるのはしごく当然かな、というのが感想だ。でも僕はすでに決めてしまったし、僕のやった事を後悔はしていない。


「失礼な言動を謝罪することは……考えてもいい。だが、私の話も聞いて欲しい。そこの征乃さんは、我々の国の外交官日向明子を殺害した容疑がかかっている。奏友君も共犯の疑いがあるし、自白の証拠もある。彼らを拘束する事の許可を頂きたい」


 苦々しい顔をした後、真剣な表情で訴える玲華さん。

 玲華さんはポケットからスマホを取り出すと、それを正面にかざす。そして玲華さんが操作をすると、ノアと言い合いになったときにユキノや僕が日向さんを殺したと言ってしまった時の声が再生される。


『どうしてわたしを巻き込むわけ? わたしが外務省の人を殺したこと言う必要なくない?』

『確かに日向さんを殺したことが良くなかった、というノアの話も分かるし、確かに殺す必要は無かったのかもしれない』


 謁見の間に響く、ユキノと僕の声。

 膝の上のレティシアが、ユキノも僕も喋ってないのに聞こえてくるユキノと僕の声に「わぁ」と感心した声を上げる。初めて見るスマホをわくわくと見つめるレティシアの表情は、なかなか可愛い。


「これは我々の国で普及しているスマートフォンと言う物で、誰かが話している声を録音……保存しておくことが出来る。そこの奏友君や征乃さんなら知っているから、理解できなければ聞いてみて欲しい。このスマートフォンに、彼らが日向明子を殺したと証言した声が保存されている。これは疑いのない確たる証拠、彼らを逮捕拘束して日本に連れて帰るべきだと我々の国では判断した」


 玲華さんの方を見つめ、ふんふんと頷くレティシア。


「ご理解頂きたい、これは間違いのない殺人。この世界でも人を殺してはいけない、という法が存在しているはず。我々が奏友君たちを逮捕する事への許可を頂きたい」

「たしかに、ご主人様たちがそのヒナタを殺したことは間違いないようです」


 レティシアが納得した顔で深々と頷いた。


「そうか、では……」


 ほっとした表情を浮かべ言葉を続けようとした玲華さんに


「ですが、断ります」


 とレティシアが告げる。


「は? いや、だが聞いてもらった通り確たる証拠があるのだ。これをどうやって否定する? 裁判をやったとしてもこちらが確実に勝利するはずだが?」


 予想外の返答に目をまるくする玲華さん。だが、その表情は自分の優位を疑ってはいない。玲華さんの口調は、物を知らずわがままを言う相手に言い聞かせるような口調だ。

 だけど、玲華さん。その考えは間違ってるよ。

 ここへ帰ってきたら、玲華さんがレティシアにそう言うことは当然予想出来た。それに対する反論ももちろん用意している。


「レイカは何か勘違いしているのではないです?」


 不思議そうに首を傾げるレティシア。


「わたくしはこの地の領主。国の一番偉い人でさえ、法で裁かれるあなたたちの国とは違います。わたくしの意思こそが裁判であり、最も優先すべき法なのです」


 堂々とレティシアは宣言した。


 そう、玲華さんは日本という法治国家で生きてきたため、確たる証拠を提示さえすれば僕たちを拘束できると確信していた。

 だけど、この世界は違う。

 中世の封建社会的な世界で、法律も存在しているけどこの場所でもっとも権力を持っているのはその地の領主だ。領主が法律を決めるため法でさえ領主を縛ることは出来ないし、たとえ王族であろうと領主の権限を上回ることは出来ない。


「たとえどんな証拠があろうとあなたが何を言おうと、わたくしがダメと言えばダメなのです」

「なっ…………!」


 毅然として言い切るレティシアに、あぜんとした表情の玲華さん。

 だけど、レティシアの以前の生真面目な彼女を思い出す、きりっとした顔はそこまでだった。


「ご主人様、言われた通りにしたのです。わたくしに愛を与えて欲しいのです……」


 とろんとした顔で、僕の胸元に顔をすりつけてくるレティシア。

 顔だけでなくその形の良い胸や腰も、おねだりをする様にすりつけてくる。


「仕方ないな、後でたっぷり可愛がってあげるよ」

「ああ、ご主人様ぁ……。嬉しいです……」


 頭を撫でてあげると、レティシアが恍惚とした表情を浮かべる。

 気のせいか、レティシアのおしりの辺りが濡れてきているような……。自分のせいとはいえ、大丈夫かな、レティシア……。


 しかし、そんなレティシア様を見てノアが叫んだ。


「カナトくん! ギフトは私たち以外には使わないって言ってましたよね?! 領主様にギフトを使うなんて!」


 信じられない物を見るような目で、僕を見るノア。

 たしかに僕はギフト邪淫失楽を、ユキノ、ノア、ファニ以外には使わないと思っていたし、みんなにもそう言ったことがある。だけどね、僕は今の暮らしとユキノを守りたい。そのためなら、使う者は使うと決めたんだ。


 そんなノアの言葉を聞いて、玲華さんも声を上げる。


「奏友君、これは許される事では、まともな手段ではない! こんな愚劣な事をしてはいけない!」


 そしてレティシアの方への両手を広げ、必死に訴える玲華さん。


「領主様、あなたは奏友君に騙されている! 彼はギフトを使ってあなたの自由意思を奪い、意のままに操ろうとしているのだ!!」


 玲華さんの言葉を聞いて、不快げに眉をひそめるレティシア。


「わたくしが操られていると言うのです? しかも、わたくしのご主人様に対しての失礼な発言、許せないのです」


 レティシアは僕の膝の上からするりと降りると、謁見の間に並ぶ衛兵に向かって右手を振り上げた。

 

「この者達は、領主であるわたくしに対する反逆者! 処刑するのです!」

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