第19話 方針
「カナトがレティシア様を攫ってセックス漬けにして、性奴隷にしちゃえばいいんだよぉ~~」
前世ではずっと年齢イコール彼女いない歴だった僕が、一世一代の告白をしてオッケーを貰い、これからは彼女だけを見て一途に生きていくんだと決心した。その舌の根も乾かないうちに、僕は当の彼女から他の女をセックス漬けにして性奴隷にしろと言われていた。
「え、なんて?」
思わず聞き返す。
聞き間違いじゃなかろうか。
あれから僕たちはずっと裸だった事に気が付き、服を着て机についてこれからの事を相談していた。
相談って言うのは、もちろん玲華さんの事だ。玲華さんは明日には逮捕令状が出るって言っていた。だから、このままなにもしなければ、明日には僕たちは逮捕されてしまう。その対策だ。
まずユキノが、玲華さんや剛也さん、日本から来た人を全員皆殺しにすると言った。
確かに全員殺して、なにか日本と行き来するために機材があるみたいなことを言っていたから、それを壊せば一件落着となるのかもしれない。だけど、それには僕が反対した。
日向さんの時と違って、玲華さん達がこちらの世界に逗留している事は領主であるレティシア様を含め、多くの人が知っている。それが殺されたとなれば問題になるだろうし、犯人探しだって行われるかもしれない。
不安要素は多いし、それになによりユキノにこれ以上罪を重ねて欲しくなかった。
もう済んだことは仕方ないとしても、好きな人がこれ以上罪を重ねていくのを見たくない。
では、どうすればいいのか考えると、次に出たのは領主様であるレティシア様にお願いするという案だ。
レティシア様は僕に好意を持っているみたいだし、僕が土下座してお願いしたらワンチャン聞いてくれるかも、とユキノが言った。……だけど、正直それはどうだろう? たしかにレティシア様は僕に好意を持ってくれてるかもしれないけど、同時に彼女は父親から受け継いだ領地を立派に運営していく事に凄くこだわっている。
立派に領地を運営し、父親のような立派な領主になると言う彼女の夢を曲げてまで、僕のお願いを聞いてくれるとは思えない。
それに、お願いを聞いてもらうという事は、レティシア様に僕たちが日向さんを殺したことを話さないといけないという事だ。
どう考えてもリスクでしかないだろう、という事でこれは却下になった。
でも、そこで話が止まってしまった。
僕たちが逮捕されないようにするには、玲華さんがいなくなるか、思いとどまる。もしくはレティシア様が、玲華さんの僕たちを逮捕する、という申請を領主権限で拒否するしかない。
玲華さんを殺すのはダメ。
また、玲華さんが思いとどまるとは思えない。彼女は優しい人だけど、証拠の存在する犯罪行為を見逃すような人じゃない。
そして、レティシア様がそれを拒否するとは思えない。
彼女は私情を排して、領主として相応しい行動をしようとするだろう。
じゃあレティシア様を思いとどまらせることは出来ないだろうか、と話し合っている時にユキノが言ったのだ。
「ん? 聞こえなかったぁ? カナトがレティシア様を攫って、ギフトを使ってセックス漬けにするの。三日三晩もヤれば性奴隷になってくれると思うんだけどぉ~~」
こてりと首を傾げるユキノ。
どうやらユキノは、なんだかんだで慣れた『いつものユキノ』で過ごす事にしたらしい。
いや、それはいいんだけど……。
「カナトのギフト邪淫失楽って、すっごいのよぉ~~? 今まで体験したことがないくらいす~~っごく気持ちいいし、ギフト使ってる時のカナトってスタミナが無尽蔵じゃない? だからあれで一日ヤられると、もう他の事なんて何も考えられなくなるのよ?」
「そうなんだよっ! ふわふわして、とっても幸せなんだよっ! カナト様以外のことは、なにもかもどうでもいい、ってくらい!」
ユキノとファニが口をそろえて、僕のギフトを絶賛する。
他のことがどうでも良くなるくらい気持ちいいと。
「うーーん……」
だけど、どうにも気が乗らない。
ユキノ以外とセックスしないと誓った手前、というのもあるけど、それはどう考えてもアウトだろ、って言うのが正直なところだ。
「カナト優しいからやりたくないのは分かるけど、それ以外の方法は思いつかないよぉ~~?」
ユキノが不安そうに見つめてくる。
たしかに、他に方法は無いかもしれない。
「ファニはどう思う?」と、ファニに聞いてみる。
「申しわけないかなっとは思うよ、領主様に。でもきっと最後には幸せになってくれると思うよっ! 気持ちいいし、カナトとセックスしたら!」
ちょっと申し訳なさそうな表情を浮かべたけど、ファニは笑顔で言う。
そうだ、僕はユキノのためになんでもすると誓ったばっかりじゃないか。
確かにレティシア様に悪いけど、殺人と比べればだいぶんマシなんだろう。最終的に幸せになってくれるかどうかは分からないけど……、たしかに無理矢理犯すような感じで処女を奪ったファニも、すぐに積極的に求めてくるようになった。レティシア様も、そうなってくれるかもしれない。
「……分かった、それで行こう」
ユキノとファニに向かって頷いた。
◇◇◇◇◇
あれから少し時間をおいて、僕たちは夜が深くなった時間にレティシア様の屋敷へと向かった。
屋敷の正面の門には、当然だけど門番がいる。
門番とは言うけども武装は本当に最低限で、警備と言うよりは受付、という意味合いの方が強いけども。とはいえ、門番は門番。正面を避け裏手に回ると、深夜遅い通りにはだれもいないし、巡回の兵もいない。そこから塀にロープをかけて侵入。僕、ファニ、ユキノと順に侵入し、敷地内に入る。
「だれもいないねぇ~~」
あたりを見回してユキノが言う。
ユキノの言葉通り、あたりには誰もいない。大きいお屋敷とかには番犬とかがいるイメージだけど、そんなのもいない。深夜遅いとはいえ、不用心だとは思う。
この世界は基本的に、みんないい人ばかりで平和だ。この国はエルフェンの国と言われているけど、エルフェンはみんなこの国に属していて、他に国がある訳じゃないから戦争なんかない。もちろん魔物に殺される人はいるし、領地同士の争いだって存在する。だけど、前世の地球と比べると圧倒的に平和で争いの少ない世界だ。
だから、基本的に警戒心は緩い。
前世で僕が住んでいたのは地方の政令指定都市の外れの方だったけど、そこでは警戒心が緩く家のドアを開けっぱなしにして出かける人とかもちらほらいた。あんな感じのノリといえば分かるだろうか。
誰もいない庭から、屋敷を見上げる。
レティシア様の部屋の場所は分かっている。二階の左から三番目……あそこか。
部屋の場所を確認すると、ファニに視線を送る。
「ファニ」
「分かってるの!」
長いロープを握りしめて答えるファニ。
前もって用意していたロープで、片方を輪っか状に結んである。
ここからは、あらゆる魔法を高度に操れる、ファニのギフト全属性魔法の力が必要だ。
ファニはエルフェンとしてレティシア様のことを尊敬していたから申し訳ないんだけど、ファニは僕のためならと協力してくれた。
「ウインドボール!」
ファニの前に、風の塊が現れる。
破壊力は皆無、手を突っ込んでも涼しいな、くらいにしか感じないよう限界まで威力を抑えたウインドボール。その風の球にロープの輪っかを作った方を突っ込む。
「行くのっ!」
そのままウインドボールを打ち上げると、風の塊はロープをするすると引っ張りながら飛び、レティシア様の部屋のバルコニーの欄干にロープの端をひっかけた。
「はぁ~~。さすがファニ、器用よねぇ~~。あんな器用に魔法を使える気はしないよぉ」
「僕もだよ、魔法でファニに敵う気はしないよね」
ユキノの言葉に笑って同意する。
ファニは割と簡単にやってのけたけど、魔法の使い方としては非常に高度なものだ。破壊力を増すような使い方はみんな考えるけど、威力を落として柔軟に使うようなやり方は、なかなか思いつかないし高度な制御を必要とする。
「さ、行こうか」
ロープを伝って、登っていく。
そして、登るとそこはレティシア様の部屋だ。
バルコニーに付けられた窓を引くと、すっと開く。窓にまで鍵はかけられていないと思っていたけど、やっぱりだ。閉まっていたら閉まっていたで、ノックするなり無理矢理開けるなりなんとでもなっただろうけど。この世界の窓や扉は、日本の家屋に付けられている物と違いあちこちに隙間だってあるし、僕たちには魔法やスキルだってある。
窓から侵入し部屋の中に入ると、目の前には熟睡しているレティシア様。
高価そうだけど華美ではない、趣味の良さそうなベッドでレティシア様は寝息を立てていた。質の良さそうなネグリジェに包まれて寝ているレティシア様を見ていると、罪悪感が頭をもたげてくる。
振り返ると、ユキノとファニ。
目線で合図を送ると、頷くふたり。……二人に流されるようにここまで来たけど、ここまで来たら覚悟を決めないと。
「レティシア様、レティシア様」
レティシア様を、ゆすって起こす。
寝たまま連れて行ってもいいけど、途中で起きて騒がれる可能性がある。それよりは、起こして話を分からせてから連れて行った方がいい、という判断だ。
「う、ううん……」
レティシア様が目を覚ます。
「ううん……あれ、カナト? う、うひゃあっ! どうしてここにいるのですっ?!」
がばっと体を起こし、身体を隠すように両手で体を抱きしめるレティシア様。
レティシア様の着ているネグリジェはシースルーの生地で出来ていて、うっすらと肌が透けて見えていて艶めかしい。確かに純粋なレティシア様にとっては、恥ずかしいかもしれない。
身体を隠そうとしたり、寝癖をなおそうとしてみたり、忙しいレティシア様。
でも、ちょっと声が大きいかも。
「レティシア様、すいません。誰かに聞かれたらまずいので、ちょっと声を落としてもらえますか?」
「そ、そうですね。カレイドに聞かれたら、お小言を言われちゃうのです」
僕の言葉を疑いもせずに、こくこくと頷くレティシア様。
カレイドってのは宰相様の事かな? 宰相様が今もこの屋敷にいるかどうかまでは分からないけど、玲華さん達はこの屋敷に泊まっているはずだ。玲華さん達に見つかるのはマズイ。
「でも、どうしてこんな夜更けに? カナトだから許しますけど、いけない事ですよ。……わたくしも、ちゃんと身だしなみを整えたところを見て欲しいですし……」
最後の方はごにょごにょと独り言のようになるレティシア様。
そんなレティシア様を騙すような形になるのは、とても心苦しい。だけど、僕はもう決めたんだ。ずっとユキノのそばにいる、この世界にとどまるためにどんな事でもするって。
「実はここから少し遠いんだけど、レティシア様の助けを必要としている人がいるんだ。急ぎだから宰相様とかには知られたくない、今すぐに来て欲しいんだ」
レティシア様の目を見つめて言う。
これが、ユキノと考えた嘘。
優しくて民の事を考えるレティシア様なら、こう言えばついて来てくれるだろう。それに、僕たちが困っていてレティシア様の協力を必要としている事は間違いない。だから、完全な嘘では、ない。
……詭弁か。
僕がそんな考えに捕らわれていると、びっくりした様な表情のレティシア様が、コクリと頷く。
「よく分かりませんが、いいですよ。カナトの言うことですし、だれか困っている人がいるなら助けてあげたいのです」
「ありがと、レティシア様」
僕は複雑な感情を抱きながら、レティシア様に頷き返した。
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