第42話 不落のロイス


「な、なにこのデタラメな能力値は……!?」


「これがオレの本当のチカラだ。真の力を解放したらこうなったんだよ」



 ドッペルと会話して得た、これまでのロイス・コレートの一生。

 そのすべて、358回分の周回経験値がオレを強くしたのだ。



「お次はなんだ? 炎の嵐か? 水銀のつぶてでも放つか? 残念だがそのどれも経験済みだ。死亡フラグはすべて折ってある」



 少し遅れて【自動回復】のスキルが再発動。体力と魔力が回復しはじめる。

【スキルリチャージャー】で、スキルの再発動タイミングを早めることが可能だった。



「魔装具でコジロウさんの能力値も10倍にしてある。結界の効果も薄れて死印のチカラも元に戻った。メイメイ、キミに勝ち目はないよ」


「ふ、ふふふ……」



 ユウキの挑発に、ヒトガタたちは不気味な笑い声の輪唱で答える。



「素晴らしい!」

「素晴らしいわ! 死印のチカラはなんて素晴らしいの!」

「ああ、魔女さま! どうかお恵みを! アタシにその男をちょうだい!」

「よこせ! よこせ! すべてすべてすべてっ!!」

「すべてアタシのモノだぁぁぁぁっ!!!!」



 ヒトガタは狂ったように叫ぶ。

 羨望、嫉妬、哀れみ、怨み、愛と憎しみ。

 それらすべての混沌とした感情が巨大な魔力の渦となって、魔竜の内側からあふれ出る。



 ――――キュィィィィィン!



 魔竜は大顎を開き、高純度の魔力を一点に集中させた。

 これで最後だろう。



「オレが攻撃を受け止める。後は任せたぞ二人とも!」


「了解!」「承知!」


「GAAAAAAAAAAA!!!!!」



 魔竜が雄叫びをあげて、フルパワーの【闇の波動ダークビーム】を放った。



 ――――シュゴォォォゥゥゥ!!!



 黒光の奔流が空間を蝕み、超高熱によって岩肌を溶かす。

 生身の人間がまともに受ければ、光に触れただけで一瞬で消し炭になるだろう。

 だがオレは怯まず逃げず、大盾をかまえて真っ向から【闇の波動ダークビーム】を受ける!



「【難攻不落インヴァルネラブル】!」



難攻不落インヴァルネラブル】は、全魔法属性耐性、全攻撃耐性を持つ最固の障壁を生み出す複合スキルだ。

 358回の周回を繰り返すことで手に入れた、オレだけの固有技ユニークスキルだった。

 


「【闇の護法ダークブースト】!」



 オレが攻撃を受けている間に、ユウキがオレとコジロウにバフ魔法をかけた。



「これが愛のチカラでござるか……!」



闇の護法ダークブースト】による強化はコジロウの肉体、クリスタルソードに影響を及ぼす。

 コジロウは桁違いの魔力が込められたクリスタルソードを両手で握りしめた。



「いけるなコジロウ! 突っ込むぞ!」


「もちろん!」



 オレは大盾を持ち上げて魔竜に向けて突進を仕掛ける。

 近づけば近づくほど、ダークビームによる負荷が大盾にのしかかるが。



「ユウキの愛に比べれば軽い!」



 魔力吸収効果のある魔石が輝きを増す。

 ダークビームを受け止めれば受け止めるほど、大盾はより強固になっていく。

 オレはダークビームを受けきって、コジロウの間合いにまで連れて行った。



「今だ!」



 コジロウが前に飛び出す。

 魔装具と【闇の護法ダークブースト】により超強化されたコジロウを目で追うことは不可能。



「秘剣――」



 コジロウはまるで瞬間移動したかのように、一瞬で魔竜の頭部に至ると。



「燕返し」



――――ヒュン!



 光の速さで剣を振るい、8体のヒトガタを同時に斬り刻んだ。




「ぎゃああああああああああ!!!!」



 8つの口、そして魔竜の大口で断末魔の叫びをあげるメイメイ。

 崩れはじめたヒトガタの手を伸ばし、コジロウに迫る。



「それだ! そのチカラをよこせぇぇぇ!」


「そんなに欲しければくれてやる!」



 コジロウは大きく後ろに飛び退くと、開いた魔竜の大口にクリスタルソードを投げ入れた。



「ああっ。これよ。これが欲しかったの!」



 クリスタルソードを飲み込んだ魔竜は満足したように腹を、そこに描かれた死印を撫でる。

 魔竜は元から魔力炉を暴走させていた。

 そこに魔力がチャージされたクリスタルソードを投げ入れられたらどうなるか。



「ユウキ殿!」



 大盾をかまえるオレの背後に着地したコジロウが、ユウキに声をかけた。



「【ダークエンチャント】」



 ユウキは魔竜の腹部に向けて【ダークエンチャント】をかける。

 たったの一押し。それだけで―――。




 ――――――ズガァァァァァァァァァァァンンッ!!




 魔竜は【過負荷オーバーロード】によってカラダの内側から爆発。

 オレは大盾で背後にいる二人を爆風から護った。




「――――――――――――!!」



 炎に包み込まれて滅びゆく魔竜のカラダ。

 爆風に耐えられず崩れ落ちる足場。


 この世のモノとは思えない断末魔を上げ、メイメイだった魔物は溶岩の海に沈んでいった………。



「終わったな……」


「うん……」



 ユウキが生まれた封印の間も、魔竜の亡骸と共に沈んでいく。

 ユウキは消えゆく故郷を寂しそうに見つめ。



「ボクも逝かなくちゃ」



 今にも崩れそうな崖の上に立った。



 --------------------------------


 ついに最後の戦いが終わりました。

 お読みいただき本当にありがとうございます。


 読者さまの☆や作品フォローが創作の後押しになります。少しでも面白い、先が気になると思われたら、応援の程よろしくお願いいたします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る