第41話 358回目のラストバトル



 ユウキはオレの隣に立つと魔装具を召喚。魔女服に身を包んだ。

 それからプリズムワンドを手にして、目の前の魔竜を睨みつけた。



「ねえ、ロイス。ボクのワガママ聞いてくれる?」


「魔竜を退治しろってんだろ」


「これはギルドの依頼じゃない。お宝はすべて瓦礫の下。ここで逃げたって誰も文句を言わない。それでも手伝ってくれるかな」


「水くさいぞ。いまさら何を言ってるんだ。そうだろ、コジロウ」


「左様。拙者の剣はすでにユウキ殿に預けております」


「オレもだ。ユウキに首ったけって、メイメイにも啖呵切ったばかりだしな」



 オレは首輪を撫でて、コジロウは腕を掲げて笑い合う。



「それにここで尻尾巻いて逃げたら勇者の名が廃る。不落のロイスは伊達じゃないってところ見せてやる!」


「あはは。キミっておだてに弱いよね」


「伝説にうたわれる魔竜ならば相手にとって不足なし。せめてもの手向けだ。ひと思いに介錯かいしゃくするでござる」



 そうやってオレたちが気合いを入れていると、魔竜がニタリと不気味に頬を緩めた。



「うふふ。酷いニンゲンたち。アタシを殺す相談をしてるのかしら?」


「その声はメイメイ……!?」


「まだ意識があるの……?」


「3000年も経てば魔術も進歩するのよ。死印を制御する方法くらい探せばいくらでもある」




 ――――ブチブチブチィ!



 肉を裂く耳障りな音と共に、魔竜の頭部に8つのヒトガタが生まれた。

 そのどれもがメイメイの姿形をしており、狂気に顔を歪めていた。



「これがヒトの進化形。老いることのないカラダと、永遠の命を手に入れた究極の存在よ! 美しいでしょう」


「その姿のどこが美しいって?」



 オレは大盾をかまえて、光の魔石に魔竜の姿を映し出す。



「メイメイ。今のおまえは欲にまみれた醜い怪物だ。鏡を見て自分の姿を見つめ直せ」


「うるさい! アタシが一番なの! 金も美貌も男もすべて手に入れた。アタシを認めない世界の方が間違っている!」



 ――――シュィィィンン!



 メイメイは癇癪を起こすと、8つのヒトガタを同時に動かして巨大で複雑な魔術印を瞬時に展開。同時詠唱で大魔法を使用した。



「消し飛びなさい! 【雷帝の大槌トールハンマー】!」



 魔法陣から大雷が降り注ぐ、その刹那。



「【雷の護法】!」


「【ワイドカバー】!」



 ユウキが雷属性の複合バフ魔法をメンバーにかける。

 それを見越してオレは大盾を天に向けて、範囲防御を行った。



 ――――ズガァァァァン!!」



 まともに食らえば城壁すら一撃で破壊するであろう、神の雷。

 だが、オレは【雷耐性】を覚えている。多重バフの恩恵もある。

 相手が神話級魔法でもビクともしない……!



「まだ終わりじゃないわ。【呪いの霧カースフォッグ】!」



 メイメイは魔法陣から毒霧を召喚。



 ――――ジュゥゥゥ……。



 霧に触れた途端、周囲の岩肌が酸に触れたように音を立てて溶かされていく。



「酸の霧とは厄介な……!」



 コジロウは相手の隙を窺い、斬りかかろうとしたのだろう。

 だが、霧のせいで迂闊に動けない。



「酸だけじゃないわ。猛毒に麻痺、精神汚染に魔力喪失。ありとあらゆる状態異常系の魔法をブレンドした呪いの霧よ」



 ジワジワと迫る呪いの霧。

 ユウキとコジロウは魔装具に身を包んでいる。

 ある程度の状態異常には耐えられるだろう。

 オレも魔装具を召喚すれば耐えられるのだが……。



「くっ……」


「ロイス……!?」



 オレはふらりと目眩を起こす。

 レッドハーブと【自動回復】スキルの効果は切れていた。

 アンデッド軍団を倒すときに使用した大盾の魔力も尽きている。



「力が尽きてきたみたいね。そのまま生き地獄を味わわせてあげるわ」



 防御役がいなくなれば、大魔法を防ぐ術がなくなる。

 だから、防御スキルや大盾も関係ない状態異常魔法を使ってきたのだろう。

 だが――――。





 オレは呪いの霧の中で深呼吸をしてみせた。



「この程度でオレを止められるとでも? カーラの修行の方がまだ辛かった」


「どうして動けるの!? いくら不死でも毒でもがき苦しむはず。石化の呪いを受ければ動きを止める。それなのになぜ……!」


「やっぱりな。おまえ、オレが死に戻りをしていることは知らないんだな」


「死に戻り……?」


「オレが受けた呪いの正体は不死じゃない。だ。同じ時をやり直すたびにスキルを覚えて強くなる」


「そんな……。アナタのステータスを見てもどこにもそんなことは書いてなかったはず!」



 うろたえるメイメイ。ユウキは得意げに笑う。



「キミが見ていたステータスはボクが改ざんしたものだ。キミみたいな悪女に彼氏が寝取られないよう用心していたのさ」



 ――――――――――――――――


【ロイス・コレート】


 ●冒険者ランク:ゴールド

 ●クラス:デュラハン(Lv16) ファイター(Lv30)


 ●能力値:【体力87】【反射59】【知覚51】【理知37】【幸運1】


 ●ユニークスキル:【不死】

 ●所持スキル:【シールドマスタリー】【ダークシールド】【闇の寵愛】【剣技/上級】【攻防の構え】【炎耐性】【刺突耐性】【電撃耐性】【聖属性耐性】【光魔法耐性】



 ――――――――――――――――



 空中に表示されるオレの偽ステータス一覧。

 ユウキが杖をかざすと、そのステータスが砕け散って本当の能力値が表示された。


 ――――――――――――――――


【ロイス・コレート】


 ●冒険者ランク:ゴールド

 ●クラス:デュラハン(Lv358) ファイター(Lv30)


 ●能力値:【体力2802】【反射2095】【知覚1341】【理知1050】【幸運1】


 ●ユニークスキル:【死因回避】

 ●所持スキル:【シールドマスタリー】【ダークシールド】【闇の寵愛】【剣技/上級】【攻防の構え】【炎耐性】【刺突耐性】【水中呼吸】【水泳/中級】【電撃耐性】【聖属性耐性】【頑強】【苦痛軽減/体】【苦痛軽減/心】【毒耐性/上級】【病毒耐性】【麻痺耐性/上級】【石化耐性】【催眠魔法耐性】【睡眠魔法耐性】【虫の知らせ】【光魔法耐性】【水魔法耐性】【風魔法耐性】【挑発】【雷魔法耐性】【斬撃耐性】【真空耐性】【自動回復/魔】【身体強化/常時】【スキルリチャージャー】【気絶無効】【猛攻】…………


 ――――――――――――――――



「な、なにこのデタラメな能力値は……!?」


「これがオレの本当のチカラだ。真の力を解放したらこうなったんだよ」



 ドッペルと会話して得た、これまでのロイス・コレートの一生。

 そのすべて、358回分の周回経験値がオレを強くしたのだ!


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